第14話 何がヤバいって宮尾っちが一番ヤバくね?
往来で抱きしめるなんてあり得ない行動をしてまでも知りたかったはずなのに、知ったあとは走りもせずにゆっくり歩いて向かう。そんな矛盾な教師の後ろ姿を茫然と見つめるしかなかったわけで。
だからだろうか。
「良いなァ! 木下さんは……ッ!」
「どぎゃァ!?」
背後から近づくもう一人の仲間に、じゃなかった。もう一人の教師に気付かなかったのは。
「俺も秋田先生に抱きしめてもらいたい……!!」
「み、宮尾っち……? ……だよね?」
「そうだよ? あ、木下さん放課後遊びまわるのは駄目じゃん」
確かにその通りではあるけれど。
じゃあ、仮にも教師がいまどきスパイ映画でも見ないようなトレンチコートに黒サングラス状態でさらにはアイテムとして新聞まで持っているのは良いというのだろうか。
てか、本当に何してんだこの人。もうあんなコート着たら暑苦しいっての。
「宮尾っちこそ……、何しているの、いやもう本当に」
「え? 秋田先生のストーキングだけど?」
「……」
ヤバい。
なにがヤバいって自分が何も悪いことしていないと確信している目だ。まずい。ヤバい。本当に逃げたい。
「さすがに冗談だから突っ込んでほしかったなァ……」
「な、なぁんだァ! 宮尾っちがいうと洒落にならないじゃん!」
絶対に嘘だ。
あれは普段からストーカーってる人間の目だ。
「ふむふむ……、木下さんに確認を取ったということはやっぱり春川さんが関わっているのかな」
「あ」
まずい。
ぶっちゃけ桜っちが何をしているかを私は知らない。
知らないからこそあいつは私のそばに居る。知らないからこそあの馬鹿は私の傍で笑うんだ。
知らないから止められないけれど。知らないから、知らないから。
「安心しなよ」
「え?」
「また危ないことに首を突っ込んでいるんじゃないかって心配してただけだから。春川さんの件って分かったなら、俺はもうここで終了」
「そ、そうですか……、また?」
「うん、また。何か飲む?」
答える前にジュースを買われてしまえば、これは少しだけ話を聞いていけということだろうか。それか、口止めか。
「秋田先生ってさ。総入れ歯なんだよ」
「え? あー……」
確か五十歳越えているんだっけ。まだ早いといえば早い気もするけれど、別に不思議な話でもない、のかな。
「俺が四本」
「え?」
「友川くんが八本だったかな?」
「何の……、数ですか?」
「殴って秋田先生の歯をぶち折った数」
これは、笑うところだろうか。
いったい何の話を聞かされているのだろう。
「秋田先生って頭おかしくてね」
「は、はぁ……」
普段から宮尾っちの秋田っち贔屓は笑えてしまうほどである。その宮尾っちから秋田っちの悪口が出るなんてちょっと、いや、かなり変な気分だ。
ていうか、折ったって何……。
「先生として大事なことって聞くとすっごい無難な事仰られるんだ。心の中では、適当に流すことが大事だと思っていながら」
心の中で思っていることすっごい分かり易いから可愛いよねぇ!! とお爺さん教師のことに関して若い男の教師が身もだえする様子は一切可愛くないんだけどな……。
「でも、実際はすごい生徒のこと見ていてさ。ずっと待つんだよ」
「待つんですか」
「うん。向こうから、助けてって言い出すのを」
つまり、助けてと言われない限りは動かないということだろうか。
分からないでもない、かな。いまどき勝手に行動すれば何を言われるか分からないし、それこそ昔以上にそういうの厳しいって話はニュースとかでも聞くし。
「助けてって言ってしまおうものなら」
おうものなら?
「……春川さん大丈夫かなァ」
「何されるんですか!? ちょっと! ねえ、宮尾っち!?」
「大丈夫、大丈夫! ……犯罪はないはず」
「嘘っしょ!? 嘘だよねェ!?」
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