第9話 大して好きでもないくせにッ!!


「ふが、ごも……っ」


 顎を抑える先生が意味のなさない音を出すけれど、知ったことではない。一度出した拳がその程度の醜態で収まりきるはずがないじゃない。

 ああ、そうだ。そうだとも。


「それはさぞかしッ」


 付き合ってもらうわよ。


「面白かったでしょうね!!」


 あたしの八つ当たりにッ!


「家族を失った小娘がッ! 親戚の家にも居られないでボロアパートで暮らしているなんてそれはそれはなんとも面白おかしい話のネタでありますことよ!!」


 わざとであろうがなかろうが、人の地雷を踏み抜いてくれたのだ。

 だいたい、そもそも今日の売り上げがゼロになってどうしてくれる! 担任に目を付けられているなんて情報が出回れば今後の売り上げにだって影響が出るかもしれないじゃない!


「そうでしょうとも! 助けるつもりなんてありはしないんだ! 他人なんてそんなもので大正解でありがとう!」


 駄目だ。


「じゃあ、あたしの金稼ぎの邪魔をしなかったら良いじゃない!」


 駄目だ。

 駄目だ。


「そっちの都合なんて知ったことか! 適当にぶらついて帰ってしまえ! 見つけたからなんだって言うのよ!」


 笑いが、


「おっさんに抱かれるあたしをそのまま見逃せば良かったんだ! 知らない振りをしてしておけばよかったんだ!」


 止まらない。


「全部一緒だ! 桜と同じなんだッ!!」


『それはね……』


「興味本位でしか見やしないッ!!」


『とっても綺麗でまるで物語の主人公になった気分になるからよ』


「大して好きでもないくせにッ!!」


 あの人だってそうだった。


『お母さーん!』


「こっちのことなんかお構いなしに!!」


『見て! 桜の花びら! お母さんにあげるッ!!』


「どれだけ……ッ! どれだけ人がッ!!」


『あら、桜子ったら……、駄目よ? そんな地面に落ちたのなんてばっちぃ』


 綺麗なところしか見る気がない。

 そこにある現実になんか興味がない。


「ふざけんなッ!!」


 あたしの名前。

 桜が好きだからつけられた名前。

 でも。


「どうせあたしは花びらだ!!」


 地面に落ちたばっちぃ、ばっちぃ、ただのゴミ。


「じゃあ見るなッ!! あたしの名前を……!!」


 知ってる。分かってる。それが答えで、


「呼ぶんじゃないッ!!」


 現実なんだ。


「帰るッ!!」


「はふはぐはッ!?」


 まだちゃんとしゃべれていない糞教師の顔面に、未開封の缶を投げつけた。


「ごちそうさま!!」


 どれだけ顎が痛いんだ。

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