第8話 対象年齢はもっと上だけど!!


 昔は桜が好きだった。

 だって、母親が何度も好きだと言うから。


 だけど、いまは別に……。嫌いということもなく、言ってしまえば興味が湧かないわけで。


『おかあさんはどうしてさくらが好きなのー?』


『それはね……』


 認めたくはないけれど。

 あたしの人生はまるでよくある物語のようだ。キラキラとした少女漫画というよりは対象年齢もっと上のやつだけど。


 両親が共に亡くなって、親戚の家にもらわれたあと色々あって一人暮らしを始めるなんてこれぞまさしく導入部分ってもんよ。

 とはいえ、物語じゃないんだから、ここからあたしがハッピーエンディングを迎える気配はないんだけどね。


 お母さんと一緒に遊んだのも、初めて客を取ったのも、

 担任の教師に売春行為を目撃されてしまったのも、腹立つことに同じ公園で。


 違いがあるとすれば、お母さんとの思い出にだけ、桜の花がちらつくことじゃないかな。


「ねえ、先生」


 どっちかと言えば、いまは花が散ったあとのほうが桜は好きだ。客を取るのが楽になるし、かっこいいと思うんだよね。でん! と立つ姿が。


「ぅ、うん?」


 この教師がさっき言いだした言葉から想像すると、こいつはつまりあたしの事情をだいたいは理解しているということになる。


「どうし、たのかね……?」


「……」


 珍しい。

 この教師が困って、いや、怯えている? 誰に? あたしに?

 バレたら殺されるけど、あのゴリラ部長にも一切怯えることのない教師の瞳が泳いでいる。


 ……どうでも良いか。

 ともあれ。ともあれだ。


 笑えてくる。

 ニヤつく顔が止められない。


 誰にも理解されることはないと思っていた。当たり前である、だってあたしが黙っていたのだから。ミー子にさえ言っていない。

 勉強がしたいわけでもなく、大学に行きたいわけでもなく、ましてやその先の夢なんてあるはずがない。ただ、お母さんが何度も話してくれた高校に行ってみたかったというだけである。


 そのために色んな男と寝続けた。一番手っ取り早く金が稼げるんだから。

 ちょっと我慢すれば良い。ってことは、ちょっとの間我慢しとかないといけない程度には鬱陶しいんだ、これが。


 真面目に働くよりは圧倒的に金が手早く稼げるからと続けているあたしが悪いのは間違いないのかも。

 かも、というかそれが答えなんだろうな。


 だから。

 うん。

 これは、ただの八つ当たりでしかない。


「あがッ!?」


「~~……ッ!!」


 額が熱い。

 咄嗟に涙目で顎を抑える先生の胸倉を。


「知ってたんなら……」


 掴んだ。


「助けんかぃ!?」

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