第6話 金が! ねえんだよ!!


 よくある話はよくあるからよくある話なのである。

 王道が好まれるように、結局大河ドラマだって織田信長さいこーっ! ってなるみたいに。大河ドラマとか見たことないけど、歴史興味ないし。


 だから、生まれてすぐに父親が事故で死んで母親と二人暮らしというのもよくある話だし、家が貧乏というのもよくある話だし、中学生の時にその母親も事故で死ぬことだってよくある話なのである。

 と、なればここから先だってよくある話。母方に親戚も祖父母も居なかったので、私は最早縁もゆかりもなかった父方の親戚に預けられることになるのだが、まぁ、向こうからしたって邪魔でしかないわけだ。

 その家にいた年上の従兄に惚れられて、押し倒されたから金玉を蹴り飛ばしてやれば、はい、おめでとう大問題発生。適当なボロアパートを与えられた私が生きていくためにはお金を稼ぐ必要性がありますわな。


 良いじゃないか。

 中学を卒業してから働けば良いけれど、夢だったのだ。


 母が何度も何度も話してくれた高校に通うことが。


 残念ながら私にはギリギリ合格できるくらいの脳みそしか詰まっていない。奨学金をもらうことが出来れば良いのだが、悲しいことにそこはよくある話になりもしない。

 家賃と本当に最低限の金しかもらえないのだから、学費にしたって何にしたって稼ぐ必要がある。でも、勉強する必要もある。

 じゃあ、売春するしかないじゃない。だって、簡単じゃん?


 適当なおっさん捕まえて、ちょっとの間我慢すれば諭吉が手に入るのだ。可愛く産んでくれた母親には感謝しかないね、いや、ほんと。


 最近じゃ固定客も出来てきて、ますます収入が安定すると思った矢先の出来事である。


「探すとか、まじねえっすわ」


 チョイスが緑茶とブラックコーヒーという点も減点である。もう少しお子様向けのものを買うか酒でも買ってこい。


「これでも教師なのでね」


 今回のおっさんは初めての客だったのだ。これからしっかり搾り取る予定だったというのに。金もあっちも。上手いっしょ。

 やっぱり待ち合わせ場所が悪かっただろうか。最近噂になりつつあるのは知っていたけれど、まだ大丈夫だと高をくくっていた自分が情けない。


「やっぱ退学っすかね」


 それは困る。

 それだけは、困るのだ。


「なりたいのかね」


 は?

 ぶっ飛ばすぞ。なりたいわけねえだろ、いくら払ったと思ってんだ。まじ死ねよ。


「なりたくねえっす」


 確かこの教師は未婚だったっけ。しゃーねぇ、二時間くらい好きにさせれば大人しくしてくれねぇかな。


「では、売春行為は止めなさい」


「無理っすー」


 はい、出た。

 はい、はい。出ました、出ましたよ。


 馬鹿じゃないの? どうしてあたしがしょうもねえおっさん共に股かっ開いてると思ってるのさ。

 金が! ねえんだよ!!


 世の中金じゃねえとか言うやつは全員ここに連れてこい! あたしがそいつらの股に○○○を突っ込んで泣くまで○○○して○○○が○○○になるまで○○○してやる!!


 どうせあたしがお小遣い欲しさに売春しているとでも思っているんだろうさ! あぁ、あぁ! そうだろうね! 成績は悪けりゃ素行も悪い生徒がまさか学費稼ぐためにおっさん共とずっこんばっこんしているなんざ考えもしませんわな!!


「はぁ~……」


 とか叫んだところでどうにもならないことくらいは分かっているわけでありますことよ。

 向こうだってお仕事ですから、見逃してくれるとも思いませんし、無駄に頭固い教師なので誘って乗るとも思えないし。


「その感じでは、粗方の奨学金制度は目を通した後ということかね」


「は?」


 どうして。

 その言葉が。

 このタイミングで。

 出てくる。

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