vol.9
「よかったね。」
優木ちゃんが帰り際、声をかけてくれた。
「うん、ありがとう。なんもできなかったけどね。」
「それは私もいっしょ。難しいね。」
「うん、浦野君も、相馬君もすごかった。」
ほんとに、なんもできなかった。
「まあ、うちらもこれからもっとがんばろ?」
「ありがと。頑張る」
じゃあまた、と教室を出る。優木ちゃんは入江君に何か呼び止められてる。
これからもっともっと頑張らなきゃ。まずは、せめてクラスに信頼されるようになりたい。本当の意味での信頼を。
「三浦さん!おわった?」
教室には、聞いてた通り、ハチくんと千秋ちゃんがいた。
「うん、第二体育館」
「すごい!おめでとう」
「めちゃ長かったね、ほんとにお疲れ様」
「わたし正直ね、譲っちゃうかなって思ったんだ。だからもしそうなったとき、どうやってみんなに言うか一緒に考えたいって、ハチくんに言ったら一緒に残ってくれたの。」
そうだったんだ…。
「けど、よかった、楽しみだね、本番!」
「うん、楽しみ」
「じゃ、私たちも帰るね!」
「三浦さん、ほんとお疲れ様」
「ありがとう、じゃあね」
勘違いをしてたなあ。千秋ちゃんは信じてくれてた。まだ全員とは言えないけど、信じてくれてる人もいるよね。うん、がんばろ。
会場が決まったら、会場長決めは一瞬だった、第一体育館は優木さん。これは、まあ、バックに春野さんがいるから大丈夫。春野さんにしなかったのは、俺が嫌だったから。けど、腐っても元生徒会長だから、一言頼む、って言ったら、私だってあんたの下で会場長なんて死んでも嫌だったから都合がいいわ、優木ちゃんのことは任せて、だそうだ。腹立つ。
武道場は、元剣道部部長にそのまま頼んだ。日向もいるし、こっちも安泰。
それで、二体は相馬だ。
「悪かったな、先に無茶なお願いしちゃって」
「別に。これで無事会場長ですわ。まーためんどくさい仕事が増えたなあ」
「…今度なんかおごるわ」
「いいよ、別に。」
「いや、今日もめちゃ助かったし」
「そ?じゃあまあおごられてやってもいい」
「そうさせてくれ」
「収まるとこに収まったな」
「うん」
「三浦さんは、さすがに動きたくても動けないもんなー」
「だね」
「入江もお疲れ、おれはもう帰って勉強するわー」
はー疲れたーと言って帰ってった。
さて。報告に行くか。
「先輩、お疲れ様です。三年生、会場、決まりました?」
「うん、これ。よろしく。」
「はーい。顔死んでますね、やばかったですか?」
「まじでやばい。来年覚悟しとけよ」
「わたしは総監督なんてやりませんー」
「どうだかねー」
生徒会室。ここで変な因縁もできたし、相馬とも知り合った。総監督をすることに決まったのも、この部屋だ。そしてその奥、顧問室。ここに報告の相手、塩谷先生がいる。
「失礼しまーす」
「おう、終わったか、無事決まったか?」
「はい。」
これが結果、とメモを渡す。
「話し合い?」
聞いてほしくないことを聞くなあ。
「…最後はクジです」
「ふうん…。ほんとに?」
言えない。この秘密は重い。
「…。」
黙っておくと、はっはっは、と笑い始めた。俺はけげんな顔を向けてやる。
「まあ、言えないならいいや、一つ言えるのは、世の中そんなもんだ。嘘も方便というやつかな。真実を伝えることが必ずしも正しいとは限らない。けど、ほんとは真実を伝えあえる関係が一番気持ちがいいよな。そのへん、勉強になったならいいんだ。お疲れ様」
テスト前だ、とっとと帰れよ、だそうだ。なんか拍子抜けだ。掌で踊らされてた感じ。釈然としないもやもやを抱えたまま、帰った。
嘘も方便
おれは今日このことわざが世界で一番嫌いになった。
高3生、夏、文化祭 三浦花 @kaniyomu
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