第14-2話 エピローグ 番外編

 私はドキドキしていた。

 さくらがまず原稿を置き、上を向いて深いため息をついた。

「ど、どう?」

 私が水を向けると、「まだみんなが読んでるでしょ」とつれない返事で睨まれた。


 私の通う高校の物語部は現在、部長の私を入れて7人の部員がいる。必ず毎月短編の新作を発表することが義務付けられていて、順番に発表を行い批評し合う。

 今日は私の作品を発表する日で、みんなが読む間、私はまな板の上の鯉なのだ。

 ひとり、またひとりと読み終わって行く。最後に読み終えたのは桜子で、まず彼女が口を開いた。

「つまり、あんたを私とさくらが奪い合う物語ってことね」

 そういうと桜子は原稿を数ページ戻ってまた読み直す。すると、さくらが、

「違うね。これは葉子が私に長いキスをされたいと暗に求めてるんだと解釈した」

と言いながら席を立ち、私の隣に座る。

「でも、キスの描写が甘いね」

 読み直しながら桜子が言う。

「葉子が百合っ気があるのは知ってるけど、まだキスは未経験だから、想像できないんだよ」

 さくらが私に顔を近づけながら言う。

「ちょっ、ちょっと待って。それって小説の評価とは関係ないし……」

と慌てる私に、後輩たちが、

「えーっ! 葉子先輩、ファーストキスはまだなんですかあ」

とツッコミが入った。

 その瞬間。

——ブチュー!

 さくらからホントにキスされ、

「ぐわっはっは、葉子のファーストキスを奪ってやった!」

とさくらが高らかに宣言したのだ。


ああ、私のファーストキスが!

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葉桜の君に〜もうひとつのエピローグ 西川笑里 @en-twin

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