第一章 ~After story~

あの事故から、半年。

僕の身体は、徐々に回復しつつあった。

心に大きな穴をあけたまま。

好きな人を失った悲しみを背負い半年を生きてきた。

あの日、あの時、僕は何かを失ったんだ。

窓の外は雨模様で、僕と彼女が出会った時期になろうとしていた。

僕は開いていた本を閉じて、彼女に渡した結婚指輪を見つめた。

もう帰らない君を掴むように窓に手を向ける。

もう帰らない、帰れない時間をいつまでも引きずってる。


ふと、手元にフサフサした感覚がしたので下を見ると、白猫が手紙を咥えていた。

夜空と海とイルカが描いてある封筒だ。


「こんな所に来ては行けないよ。」


僕は猫を撫でると、顔を擦り付けてきた。


猫が咥えていた封筒を見ると宛名が僕宛だった。

見覚えのある字に、愛しい人の名前。

赤崎ふみると書いてあった。

僕は震える手を抑えて封筒を開けた。


そこには彼女の文字で、彼女の言葉で書かれた手紙が入っていた。

愛しい人からの手紙。

ありえないはずの手紙。

嬉しいはずなのに涙が止まらない。

絶対に送られてこない相手からの手紙だった。


折りたたまれた手紙を開く。

そこには僕との思い出やお願い事が書いてあった。

そして、涙が落ちた跡も。

愛おしくてたまらない彼女からの手紙。

僕は手紙を抱きしめた。

くしゃくしゃにならないように優しく。

手紙が僕の涙で濡れないように。


その間、白猫は隣に寄り添っていた。

白猫の体温は暖かくて、そして懐かしさを思い出させた。





「君にお願いがあるんだ。彼女に...ふみるに伝えて欲しい。」


白猫は金色の眼を見開いた。


「お願いの2つは守るよ。だけどね、最後は守れない。」


白猫は僕を見つめる。


「僕は君なしでは幸せになれない。」


僕が唯一愛した人を思い浮かべる。

過ごした日々を。

懐かしい日々を。

笑顔を。


「そしてもう一つ。『時よ止まれ。汝は美しい』こう返してくれるかい?」


白猫は返事をするように鳴いた。

そしてベットから飛び降りるとその姿を消した。



病室の窓には、綺麗な三日月が浮かんでいた。

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