第四部 わすれない

私は深見さんに改めてお礼を言った。

深見さんは”赤崎様の人生を聞けて良かったです。こちらこそありがとうございました”と言っていた。

私はもう2度と利用することがないであろうこの郵便局を見渡した。

壁にある大きな棚は今までここを利用してきた人のファイルがたくさん並べられていた。

深見さんはいままでどんな人生の話を聞いてきたんだろうか。


「赤崎様、本日はご利用ありがとうございました。」


深見さんとセスさんネコは郵便局の入り口まで見送りに来てくれた。

ふと空を見上げると三日月が浮いていた。


「本日はご利用ありがとうございました。」

「さようなら、お嬢さん。良き死後ライフを。」

「こちらこそ今日はありがとうございました。死後にいい思い出が出来ました。」


私は最後のお別れを告げた。

もう出会うことがないであろう死者郵便局の2人と1匹に。


「深見さん、セスさん、ネコちゃんも良き死後ライフをお過ごしください。」


私は笑顔でそう告げた。


「えぇ、お互い良き死後ライフを過ごしましょうね。」


私はそう言って優しく笑った彼女のことを忘れないだろう。

帰り際手を振ってくれた青年を忘れないだろう。

お昼ねから目を覚まして慰めてくれたネコを忘れないだろう。

私はもう一度、三日月を見上げて死者郵便局を後にした。

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