第三部 今日も月が綺麗ですね
深瀬さんは一息つくと悲しく微笑んだ。
その顔はとてもつらそうに見えた。
その顔をみた私は、静かに泣いた。
死んでしまった事実ともう帰れないあの場所を思って。
静かに泣く私を慰めるようにデスクの上で寝ていたネコは私に寄り添った。
「お話ししていただいてありがとうございました。」
深見さんは深いお辞儀をした。
「いえ、誰かに話したことで気持ちの整理もついたので。聞いてもらってよかったです。」
私は深見さんに感謝をした。
死後の世界、それは私にとって孤独のようなものだったから。
改めてちゃんと話せたことは私にとってとても良いことだった。
「それでは、お手紙を書きましょうか。」
深見さんは、万年筆とさっき選んだレターセットを持ってきてくれた。
「こちらに伝えたいことを綴ってください。」
死後の世界で一度だけしか書けない手紙。
ただの紙切れなのにそれはとても重く感じた。
私は万年筆を取り手紙を書き始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
吾妻洋平 様
お元気ですか。
事故のあとあなたがどうなったのかが心配です。
私は死後の世界にいます。
信じられないでしょう?
私は死後、一度しか書けない手紙をあなた宛てに書いています。
まず、あなたに一番に伝えたいことを書きます。
私を好きになって愛してくれてありがとう。
ありきたりな言葉ですよね。
でもあなたに一番に伝えたいにはこの言葉です。
プロポーズしてくれてありがとう。
まさかプロポーズしてくれるなんて思ってもなくて、プロポーズしてくれた時はびっくりしました。
あのときの私は、誰が何と言おうとも世界で一番幸せな女の子だったと思います。
洋平が言ってくれた言葉は今でも忘れられません。
幸せにしてくれて本当にありがとうございました。
これは私の人生の中で一番の思い出です。
たくさん今までの出来事について話したいですがあまり書きすぎると、私の涙が止まらなくなってしまうので、簡潔に書きます。
私があなたにお願いしたい事を3つ挙げます。
①体調に気を付けてください
②私の分だけ長生きしてください
③私以外の人と幸せになってください
私があなたにお願いしたいのはこの3つです。
どうかこの約束は守ってくれると嬉しいです。
私はあなたと出会えて本当によかったです。
とても幸せでした。
死後の世界にも月があります。
なにか辛いことや嬉しいことがあったら、夜空を見上げて月をみてください。
きっと私も同じ夜空を見上げています。
そのたびに私は思うのでしょうね。
『今日も月が綺麗ですね』と。
赤崎ふみる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は封筒の封を閉じた。
「こちらお預かりしますね。」
深見さんは手紙を受け取ると大事そうにデスクの上にある箱にしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます