決まったシナリオの中で僕は君に恋をする 短編
@kuooke
例え僕が消えようとも君のそばに居たい
――例え僕が消えようとも君のそばにいたい。
2015年。5月1日――
梨乃川俊之介は入社したばかりのサラリーマンだった。
梨乃川俊之介は両親を亡くして、夢の小説家を諦め、サラリーマンになることを決意した。
今、電車に揺られ、会社へと向かっている途中。とある女性を見つけた。
一目惚れだった。整った顔、細い腰、スラリと伸びた脚。
脚フェチではないが、ついついその脚へと目線がいってしまう。
その女性は、ちらりとこちらの方を見た。その行動は、別に意味もなく周りを確認したという行動に見えた。
僕はドキドキしながら、女性の方へ目線を向けていた。
――もう少し彼女を見ていたい。
そう思ったのだが、次の駅のアナウンスが流れたら、座っていた女性が立ってしまう。
多分、次の駅で降りるのだろう。
そう思った途端、僕の体が勝手に動くように席から立ってしまう。
そしてやがて、駅に着いて扉が開く。彼女は扉から出てしまう。
その途端、僕の体が彼女の方へと動いた。
彼女を見つけなかったら、この駅で降りる訳では無いのに。
僕は、彼女の背中を追いかける。
傍から見ればストーカーだろう。
そして僕は彼女へと声をかけた。
「あ、あの!」
そして彼女は、ゆっくりと俺の方へ振り向き
「…なんですか?」
と、困惑した様子で言った。
「L〇NE…交換しませんか?」
これが僕と彼女の出会いだった。
「は、はい?」
当然の反応だろう。知らない男性に連絡先交換してください なんて言われて驚かない女性は居ないだろう。
「L〇NE…ですか?」
「はい」
僕はダメもとで言ったのだが…。
だが、女性はポケットからスマホを取り出した。
僕は、その行動を見て、「も、もしかすると」と、心の中で淡い期待をした。
「じゃあ…ふるふるでいいですか?」
「え?」
「え?」
女性がふるふると言ってきたので「え?」と情けない声を出してしまった。
まさか、交換出来るなんて思わなかった。
「し、しないんですか?」
「しますします!」
その行動は自分でも僕がキモイ事はわかっているのだが、今はそんなこと思って居られないほどに嬉しかった。
無事に彼女とL〇NEを交換出来た僕は、密かに心の中で舞い上がっていた。
ダメ元で言ったのだが、まさか交換できるとは思わなかった。
「あ、名前って…」
名前を聞いていなかった事に僕は今気づいた。
どんだけ必死なんだよ僕… と、心の中で自分を責める。
「李藤紗奈です」
名前まで可愛いな と、キモイことを思って、僕と彼女はここで別れた。
別れてから、会社について俺はスマホを見る
「なににやけてんだよ俊之介」
「あ、いや…」
いつの間にか顔がにやけていたらしい。キモイな僕。
僕に話しかけてきたのは、流川颯太という結構イケメンの同僚だ。その顔が欲しいと思ったことは何度もある。
「なんだよ彼女でもできたか?」
「ちがうよ」
「じゃあなんでにやけててんだよ」
「…ちょっといい事があって」
「だからそれを聞いてるんだよ…」
颯太がしつこくきりなく聞いてくるので仕方なく正直に言う。
まず、電車の中で一目惚れしたこと、そしてその人と連絡先を交換したこと。
「…うわぁ、お前ほぼ変態じゃん」
「そんなことわかってるけど」
颯太が引きつった顔で言ってくる。
自分も何故あんな行動をとったのか分からない。自分でも驚いている。
「お前そんなキャラだっけ?」
「…わかんない、多分違う」
なんか、こう…しなきゃならない的な何かが…。
って、ほぼ変態じゃん僕…。
「はぁぁ…」
考えるのはやめよう、考えれば考えるほど自分が情けなく見えてくる。
「まあ、とにかく、そこまでしたんなら攻めるしかないだろ」
「そんな簡単じゃ…」
「なんだよ、追いかけて連絡先交換したんだろ?攻めなきゃ損だぞ」
まあ、できるだけやってみるか と思った僕は仕事に集中する。
颯太も雰囲気を感じて仕事に戻る。
食事でも誘おうかな…と、変態的なことを考えながら仕事をした俊之介であった。
数日後。会社の休みの時間で僕はスマホをみつめている。
あれから、僕は何も出来ていない。
あの時の勇気はなんなんだったのだろう と思うほどに勇気がない。
「まだ誘ってねぇのかよ…」
と、颯太が呆れ気味に言う。
「や、しょうがないだろ、そんな勇気僕にはないよ」
「はあ?電車の時どうしてたんだよ…」
僕もそう思うよ… と思いながらスマホを見つめる。
そこには「さな」と書いてある李藤さんのL〇NEがある。トプ画は自撮りだろう、綺麗な顔が写っている。
思わずため息をついてしまう。どうすれば…。
と思っていたら、スマホから通知音が来る。
なんだろう?と思いながらスマホを見る。
すると、李藤さんからL〇NEが来ていた。
「うえっ!?」
「うわっ…びっくりした。なんだよ」
多分颯太より僕の方が驚いただろう。直ぐに僕は李藤さんからのL〇NEを見る。
『今週の土曜日、空いてますか?』
「うえええ!!?」
「うるさいぞお前」
なな、ななな、なんですと?これはお誘いか?
僕は震える指で返事を返す。
『はい。空いてますよ』
心臓の鼓動がやばいほどに早い。痛い死ぬ。そう思いながら返事を待つ。
数十秒ぐらいしたら、通知音がなる。心臓が飛び跳ねた。
『では、お食事はどうですか?』
ぐえ、もう死ぬ。心臓が…。
僕は更に震える指で返事を1分ぐらいかけて書く。
『はい、良いですよ』
もっと良い返事はないのだろうか? と思いながらもスマホを閉じる。
はぁ…心臓が止まるかと――そう思った途端、通知音が来た。
「うああっ!?」
「だからお前うるさいぞ?」
仕方ないじゃないか、安心した途端通知音が来たんだぞ。
僕は更に更に震える手と指でスマホを見る。
『では、午後1時にCafe Satoで待ってますね』
ちょ、なんか展開がめちゃくちゃ早い。
僕は返事書こうかなと思ったけど止めた。これ以上やると、心臓が止まってしまう。
僕はスマホを置き、大きなため息をつく。
「おい…どうしたんだよ」
颯太が心配したような声を出す。
「ちょっと…心臓が…」
「大丈夫かよ」
「…大丈夫」
休みの時間が終わるまで、心臓の早まりが終わらなかった。
死には至らなかったので良しとする。
土曜日。ついにこの日が来てしまった。
今日は李藤さんとお食事の日だ。
朝から忙しかった。精神面が。寝癖がないか何度も確認したり、服に汚れがないか確認したり。
朝から心臓も忙しかった。
「おおお落ち着け僕…」
ネットで落ち着く方法を検索して、鏡の前で自分に言い聞かせてもダメだった。やっぱりネットは嘘ばかりだ。
そして、もうすぐ時間だ。僕はドアノブに手を置き、ガチャリと回した。
あ、やばい吐き気が。
僕はCafe Satoの前に今立っている。時刻は12時57分。ちょうどいいだろう。
早速Cafe Satoの中に行く。
僕は店内を見渡す。すると、李藤さんはこちらを見て、笑顔で手を降っている。
その途端、嬉しさと緊張が一気に肩にのしかかってきた。
僕は李藤さんが座っている2人席に座る。
「ごめんね、急に」
「あ、いえいえ。全然大丈夫ですよ」
できるだけ笑顔で自然に言う。
出来ているだろうか。多分引きつっていると思う。
「…ふふっ、そんな緊張しなくていいよ」
「ああ…女性とこんな風に話すのは初めてで…」
「それと、敬語じゃなくてタメ語でいいよ」
そんなことを言われて、今更だけど李藤さんは敬語じゃなくてタメ語で話している。
…嬉しいけどまた緊張が…タメ語で行けるのか?僕。
「あ、ああ。わかった」
「うんうん。あと紗奈でいいよ」
ああああ…なんでこの人はこんなに距離感が近いのだろうか。
耐えれるか、僕の心臓。
「はい、ほら紗奈って言ってみて?」
なんでこんなに積極的なのだ?普通女性ってこう言うものなのか?
余り女性経験がない僕はわからないよ。
「さ、紗…奈?」
「ん〜?なに?」
と言って李藤さ…紗奈は笑って見せる。
わざとらしく笑ったその笑顔は僕には天使…いや、女神に見えた。
「どうしたの?」
少し見惚れてた僕は、紗奈の笑った声で天国に行っていた僕の気は戻ってくる。
「い、いや…ちょっと積極的…というか」
「嫌?」
と言って紗奈は上目て言ってくる。その顔は反則…でしょ。
「でね、その人がちょっとうざくて…」
「ああ、わかるよ」
あれから1時間ぐらい紗奈と話していた。
紗奈は結構話しやすい人なのかもしれない。僕はそう思った。
なんて言うか…壁がないって言うか。そういう人が学生時代モテるんだろうな…。
「俊之介は中学か高校で彼女とか居た?」
「いや、居ないよ…欲しいけどね」
「ふ~ん…」
何やら紗奈は顔をニヤニヤとさせた。絶対いじられるやつだ。
だが、そう思っていると、聞き間違いかな?と一瞬思った言葉を紗奈は言った。
「私がもし、俊之介に告白したら?」
「…え?」
「だから、告白したら?」
と、頬を淡く紅くして言った。
そんなの…1発おーけーだと思うけど…。
「告白って…もし仮にされたとしても罰ゲームかなんかかな?って思う」
「ふ~ん、じゃあ…罰ゲームじゃなかったら?」
ああ…なんでこの人は…
「…まあ、付き合うと思うけど?」
こんなにも
「…じゃあ付き合う?」
僕の心の中を土足で
「ん~、返事は?」
ドンドン来るのだろう。
僕は少しだけ…いや、固まっていると、ふふっと、笑って言った。
「冗談だよ、冗談!」
はいはい、と言ってほかの話題を持ってくる。
勘弁してくれ。心臓が持たないよ…。
5日後。僕はいつもの様に仕事に集中していた。
「これでよし…と」
そして僕は、スマホの画面に写っている、「さな」という文字を見つめていた。
土曜日にお食事に誘われた時から、グンっと距離が縮まっている気がする。
毎日、朝に『おはよう』と、L〇NEで送られてくるし、夜は『おやすみ』と送られてくる。
僕はそれに対して『うん、おはよう』『うん、おやすみ』と返事をしている。
もうなんか、付き合いたてのカップルみたいだなと思って毎日ドキドキしている。いつか心臓止まりそうだ。
「最近どうよ」
颯太がニヤニヤしながら聞いてくる。
「…なにが」
「いや、そのストーカーしてL〇NE交換した相手よ」
「ストーカーとか言わないでよ」
…傍から見ればそうだったのかな。
「で、どうよ」
「…土曜日に食事にいったよ」
「おお!すげーじゃん」
「そうかな」
それに颯太はうんうん、と言ってくれる。大きなお世話だよ。
でも、連絡先交換してその数日後に誘われるなんて、普通じゃないのかもしれないな。
その時、スマホから、通知音がした。この音は…L〇NEか。
僕はスマホの電源を入れて、L〇NEを開く。
『今、家に来てくれる?』
と、紗奈から連絡があった。さらに立て続けでL〇NEが来る。
そこには住所が書いてあった。
「はあぁ?ええぇ?」
これには驚いてしまう。出会って10日ぐらいの人に普通家を教えるか?
さらに連絡が来る。
『大事な話があるの』
大事な話…分からないな…でも、そう簡単に女性の家へと上がっていいのか?
『Cafe Satoの中じゃダメなの?』
と、試しに送信してみる。
『ダメ、家じゃないとダメなの
急に家にきてとか、キモイのはわかってるの』
ど、どうしよう。こう言う時ってどう送ればいいのか…。
でも、家でないといけない大事な話。なんだ?なんなのだ?
だが、それほど重要なのだろう。
僕は返事を書いた。
『いいよ』
高級マンションが目の前に、天を突き破るように立っている。
僕はその高級マンションのエントランスに行き、教えてもらったパスワードを入力する。
すると、ガラスの扉が開く。僕はそのまま行って、エレベーターに乗る。
「えー…と…たしか13階…」
僕は13階のボタンを押す。ボタンはオレンジ色に光り、エレベーターが動く。
そして少しすると、エレベーターの扉が開く。
紗奈から教えてもらった、番号のドアを見る。ここか。
僕はインターホンを押す。
ドタドタ、とドアに駆け寄る足音が聞こえる。そして、ゆっくりとドアが開く。
そして、ひょっこりと紗奈の顔が出てくる。
だが、その顔には、涙という水が頬を伝っている。
「紗奈?」
「入って」
言われるがままに僕は、紗奈の家へと入る。女性の家に来るのは初めてだからなんか、緊張するな。
座って って言われたソファに僕と紗奈は並んで座っている。
「…どうしたの?」
紗奈は、ゆっくりと涙で濡れた顔を、僕の方へ向けてくる。
「…聞いて」
ゆっくり、ゆっくりと紗奈は喋る。
「私が別の世界から来たって言ったら信じる?」
僕はそう言われて、混乱した。
別の世界から来た?どういう事だ?
「…信じるわけないよね」
そう、問われた。
そう言われて、否定は出来なかった。
だが、冗談だとして、わざわざその冗談を、家を教えてまで言うか?
なら、僕の答えは決まっている。
「信じるよ」
すると、紗奈はゆっくりと
「本当?」
と言った。
「…でも、どういう事?」
紗奈は、安堵をしたような表情をだして、僕に説明をしてくれる。
「私ね、別の世界にある特殊な病気にかかってるの」
紗奈は、その病気の説明をしてくれた。
その病気は、発病して、1ヶ月後に突然、消えてしまうという治療法のない病気だと。
その病気は100億人に1人の確率だと。
「その病気が発症したのは、明日の午前1時なの」
その説明を聞いた僕は、目の前が真っ暗になった気がした。
「…これは、関係ないけど…長年、病気の人に関わっている人も消えちゃうの」
また、ゆっくりと紗奈が説明をする。
それは、防げれるもので、病気の人が消える1週間前から、消えるまで合わなかったら防げるというものだと。
「…それと、別の世界から来たことに何の関係が」
「それは…私でも分からないの、長年関わってきた人が消えないように、別の世界へ行きたいって願ったら…この世界に来てたの」
そう言うと、ゆっくり紗奈は僕の方を見て、ゆっくりと言った。
「もし、俊之介が私の幼なじみで長年関わってきて、私が消えるとしたら…消えるまでそばに居たい?」
そんなの。
そんなの決まっているじゃないか。
「僕が君の幼なじみだったら。
例え僕が消えようとも君のそばに居たい」
その瞬間、紗奈の目から、涙という涙が溢れ出した。
そして、僕の胸元に頭を付け、行き良いよく、抱きついてきた。
「やっぱり、俊之介は俊之介だね」
と、弱く、小さく僕の胸元で言った。
「…どういう事?」
と言ったが、紗奈は答えてくれない。
だが、今はそんなこと、どうだっていい。
「幼なじみじゃなくても、僕は君のそばに居たいよ」
そう言って、僕は紗奈を強く抱き返した。
翌日。
僕は…そうだ、紗奈と一緒に…寝たんだった。
「紗奈、紗奈?」
紗奈と僕が寝ていたダブルベッドを見ると、そこにはもう、紗奈はいなかった。
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