第22話 戸惑う正義
私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)二十三歳!
正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!
困ったことに、研究オタクのオオヌキさんから脅迫されたわ!モヤモヤしながらの出動よ!
今夜も出撃。
いい加減疲労が積み重なっている。
ここのところ毎日だ。
以前は満月の夜にしか動き出さなかったわるもんが、軒並み動き出して活動が盛んになっている。
今日は中央区。
街の中心に近い場所。
交通の要所を分断し、機能を停止させるので、大規模停電を装う必要があるかもしれない。
そういえば、オオヌキトシエさんが、言っていた。
「今度、白鵬(はくほう)地区で、パニック起きるからその時に捕まえてよ。ひとつさー」
あの人、なんで知ってるんだろう…。
今の、このことを言ってたのか…?
ひとつって複数攻撃ってことなんだよね…。
ねぇ、オオヌキさん…
範囲が広すぎるから、ドローンが催眠ミストを幾重にも撒いている。
繊細な場所だ。
赤星さんが、指示を出す。
「地下上水道へ追い込んだとしても、地下鉄通路近辺に寄せるな。P-Hak-階層も気をつけろ。地下延伸工事が行われているから地盤が弱いところで戦うな」
砂岩地帯に杭を打ち地盤を安定させている場所。こんなところが街の中心…。
「私さ、どんどん地下の土壌にひどく詳しくなっていくなぁ…。こんなところで戦うなんて、危険すぎて笑う!」そういうと赤星さんから怒られた。
「危険なんか当然だ、死守しろ」って。
心の中で「赤星さん、死守しろと言われましてもね…」と愚痴りたい気持ちを抑えた。
そんな気持ちを知らずに「百崎さん、今日はこれ試させてもらっていいですか?」そういうのは深緑(みろく)くん。
「僕が追尾マーカーを打ち込んだあと、捕縛ロープが桃さんのパラライザー鞭と連動するんです。鞭というより、捕縛網みたいなものです。そしてこれは電磁拘束が可能です。比較的簡単に捕縛できます!」
「了解、使用許可は?」
「赤星さんからは頂いてます。混乱しない限り自由裁量でと。タイミングの捌きやってもらえますか?」
「わかった!やってみる」
期せずして、緑くんの新アイテムゲット。
早めにケリがつくかな?
我々の部隊は、表口の大通り前。
ここまで侵入されたらかなり危険。
地下鉄沿線まで届いてしまう。
わるもんベアリングを発動させるなと言うのはレッド。いわば混ぜるな危険系のやつ。
獣系と人系を接触させたら万歳アタックする気になってるわるもん。
わたしはリーディングできるのは彼らの覚悟だけだけど、それでも、この場では役に立つ。
都市圏に近づけば近づく程、覚悟が強いわるい子が発生する。
今回なんか、交通の要所だ。
これ、非常に緊張感だ!
赤星さんからの通信。
「個別捕縛要請が来ている。引き離して捕縛しないと奴ら万歳アタック始めるぞ。多分、あいつら交通の基盤を破壊するのが目的だ」
地震が起きた。
百崎、前に出られるか?通路が狭い!
先行して指示を出してくれ。
赤外線発光体グローブを装着して前に出る。
通信が殆ど効かない。磁力線通路。
先頭に立つのは的になりやすいけれど、意外と気持ちいい。何が気持ちいいかというと、わたしが指差したところに弾幕が集中するし、私が掌をむけたところにバリアが発生して盾がわりになってくれる。
丸腰でぐいぐい侵攻しているのに、背後で凄まじいバックアップが動いている。
もちろん、私が判断を誤れば、一瞬で着弾。
消炭と化す。
そんなスリル付きだけど。
広げた掌でわるもんから発せられた攻撃の軌道を知らせる。
そこに浅黄さんがバリアを張る。
指先で指示した場所が敵の位置。
赤星さんが位置を把握しつつ攻撃を開始した。
私はサーチする
サーチして瞬時に飛んでくる攻撃を、制御する指示を出す。
掌で防御、敵の位置を指で指し示す。
防御は、黄色の仕事で、攻撃は青の仕事。
赤星さんは遠距離攻撃を敵内部へ集中。
弥勒くんは新しい試作機を抱えつつ、私に続く。
青島さんは、その攻撃パターンを見つめながら、解析中…。
「ねえ、百崎さん、これ、変じゃないですか?」
そう、一緒に突入中の弥勒くんが言う。
「ん?何が?」
「わかんないんですか?軽いし細切れすぎますよ?!敵の攻撃が!全然位置もわかんないです!」
「ヤバイですよ?位置が絞れないって!数が把握できませんよ?」
「了解!雑魚を沈黙させる!数を数えやすくしよう!」
彼の言う通りだ。
かなりの雑魚が大量に存在する。
ブロックサインで、位置を指し示し、バリアに散弾を着弾させると、通路内で光線が爆ぜた。
弥勒くん、鉄砂!と言う指示を出すと、ギラギラした粉塵が大気中に舞い、その鉄に弾かれた光線が更に細く散る。
通路全体が瞬間で発光体のような爆発を起こした。次元逃亡に遅れた半数は滅したはず…。
羽虫のような大量のわるもんが、黒コゲになって落ちた。
半分焦げて、震えてる虫のようなわるもんが、こっちをみている。
意思を持たない虚ろな眼が隻眼となって涙を流していた…。そこに、瞬時に現れた人型の昆虫のような…わるもん。
(ひとつ調達してよ!百崎胡桃さん?)
そんな声が頭の中に蘇った。
思わず、小さく震えているそれに手を伸ばしてしまう。
セットで捕獲したら、あの人も納得するのかも…そう思い、腰を屈めた瞬間。
その瞬間、たった、一体が発する物凄い憎悪の眼が私を捉え…。
爆発した。
憎悪、なんでこんなに怒ってるの?この子たちは!
爆発の瞬間に、わるもんの意識に介入することに成功した。
地盤の柱を砕いて、地盤を液状化させるつもりだ、この子たち!
その瞬間に、大きな感情に巻き込まれた。
ただ、死んでも一緒にいたいという強い感情だ。
死ぬほどこの子たちは一緒にいたいのだろうか?それほどこの世界に絶望してるのか?
心を読むのは得意なはずだったのに、読みすぎて溺れそうになった。
シンクロし過ぎだ!
ヤバイ、感情まで巻き込まれた!
凄まじい数の意識が異次元からのぼってくる。ここにいるわるもんの意識が雪崩れ込んできた。
オブザイヤーのセリフを一瞬思い出した。
我々は個にして全!
鼻血が出た。
意識が消し飛ぶ!
捕縛できない!
遅れた!
私は、茫然と立ち尽くし次々にやってきた小さな人形わるもんの侵入経路を閉ざすこともできずに、息も絶え絶えの獣型と抱き合って爆風を巻き起こす。死体となった獣型に抱きついた人型は泣きじゃくりながら連鎖爆発。
凄まじい爆風が連鎖し地上では道路に陥没が起きた。
こんな街中でなんたる失態!
地下鉄工事の失敗だとのちに言われたが、あれはわるもん退治に失敗した無様な結果だ。
押込失敗
これが、日本全国の地下に潜ったわるもんに、希望を与え、一気にパルチザン化することになった。
たった2センチ程のわるもんの処理を躊躇った為に、わるもんは再度、組織化されたようだった。
日常・ヒロイン もりさん @shinji_mori
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