第21話 深夜の幻視と呪い
【自己紹介】
私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)二十三歳!
正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!
初めて出撃した戦隊のおしごとで抱き合って捕縛された『わるもん』をみて、複雑な心境を抱えたまま迎えた夜よ!
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物音がしない深夜の部屋の闇の中。
屋根裏とかないはずなのに、夢の中では天井板がゴソゴソとずれて、おかっぱ頭の頭頂部が丸く禿げた着物を着た男の子が、無表情で私が寝ているのを眺めていた。
深夜にふと目を覚ました時にそんな子供と目があった…。というような夢だ。
平家物語で読んだ、禿(かぶろ)とかいう平清盛が採用した子供のスパイを思い出した。
そう、夢なんだな。
本当に、あんな禿(かぶろ)がいるはずはない。
この部屋に実家の天井みたいな天井板みたいなものもあるわけない。
もしさ、あんなものがここに出るようになったとしたら、もう、この部屋自体がわるもんの巣窟になってるってことじゃないか。
まじ、それだけは勘弁だ…。
こんなオカルトチックな夢なんか、なぜ見るんだろう…。そう思いながら、深夜二時の時計を確認して、わるもんがいるオリを眺める。
わるもんは、夢で私が目を合わせた子供がいた場所を眺めていた。
何かいるなぁ…。
見ないようにしよう…。
というか…。
すでにこの部屋は魔物の巣窟化してる気がする。だって、わるもんはペアでここにいるし、オオヌキさんは勝手にここを盗撮してるし、私の日常は崩壊している!
そう思うと、目が冴えた。
だんだん腹が立ってきた。
やばい。
ムカついてきた。わたしにはプライベートが無いし…。
この前、戦隊出動における、わるもん捕縛に関してもなんだか納得できない。
あの子たちが、何をしたというんだろう?
ソエミン先生は言っていた。
正義にも悪と言われているものにもそれぞれの信じている正義がある。
じゃ、わるもんの正義って何だ?
私は、何もしらない…
知らない居心地の悪さが耐えられない。
だって、この子たちは普通に平和に生きている。悪さもしない。
ただ、戦いに負けただけだ。
わるもんと呼ばれている一族が。
カブロはこの子達のオーナーなのかな。
探しにきたということかもしれない。
だったら…。
静かに渡してしまえば、私も平和な世界へ戻れる…かも…。
いや、それは嘘だ…。
いろんなことを考え過ぎるようになった…。
もう、正しい正義の世界には戻れそうにもない…。
あの捕縛され、抱き合ったわるもんの人型と獣型の姿を見た時に私の中で何かが変わってしまった。
迷いがあったら、正義は実行することができない。私は、もう、変身ヒーローたり得ない。
赤星さんが戦隊のリーダーなのは、戦闘の中で迷いなく判断をくだせるからだ。
それが、誰かにとって非情な判断だとしても。それが、人間にとってさえも。
子供の命か平和かの判断を迫られたら、おそらく、子供の命は救っても救えなくても、戦隊員の命と引き換えに行動だけは起こすだろう。
それは、平和をとることの代償としての生贄行動だ。
仲間が再起不能になろうが、帰らない姿に陥ろうが、タスクをきっちりとこなしていくのが彼だ。
だからこそ、彼の指示のもと、現場は恐ろしくスムーズに動いてきた。
怖い。
わたしは、その決断が鈍っている。
怖いから、腹が立つ…。
周囲の全部に腹を立ててしまって、私にはどこにも落ち着ける場所がない。
私は、誰も守れなかったし、誰も救ってない。わたしさえも破壊しかねない状態にある。
この子たちも、こそこそと匿ってるだけで何一つ事態は良くなっていない。幸せにする自信もない。
私は布団の中で背中を丸めて、頭を掻き毟っている。暗闇の中、もう、どこにもいく場所がない気がした。
現場で迷いのある私は、彼らについていける気がしない…。
忠誠心自体が潰れてひしゃげてしまった…。
迷いに満ちた迷路の中で堂々巡りを繰り返して、常になく疲れ果ててしまった…。
疲れ果てている。
心も、体も。
疲れ果てているのに眠れずにずっといる。
「それね、あれだよ。魔除の札貼っといた方がいいよ」
そう言ったのは、オオヌキさん。
「わるもんの毒気にあてられたね」
と言った。
「しょんぼりやねぇ。いつもしょんぼりやけど」
「そういうの言って良いんですか?患者に向かって」
「そういう固いこと言うのやめなよー水臭い」
手をひらひらさせながら「お札出しとこうかねー」そう言って、ぺったりと私の額に宇宙パワー的な金ピカのシールを貼って、ケタケタ笑った。
段々とオオヌキさんが、わたしのことを雑に扱っている気がする。
イライラは、頂点に達していて、叫ぶように「オオヌキさん!いい加減にしてください!」と言ってしまった。
オオヌキさんは「ほう?」と言うと身を乗り出した。
「情緒不安定ですね?眠れて無いですよね」
「さっきから言ってるでしょ?私は患者です!仕事してください!」
オオヌキさんは「わかりました」と言うと、わたしの襟首を掴んで、引き寄せて「預かりますよ?その、悩みの根源を…」と満面の笑みで伝えてきた。
「悩みの…?」
そういうと、くちの形だけで「わ る も ん」と声を出さずに伝えてきた。
わたしは、ゾクリと背中に悪寒が走った。
「あれは、わたしのです!オオヌキさんには渡しません!」
金切り声の叫び声のような言い方になった。
「へぇ、残念。すごくいい研究材料なのに」
そう言いながら口を尖らせた。
「正義の味方カンパニーは、わるもんについてほとんど情報をくれませんから、独自調査をしたいんですよねぇ」
「してるじゃないですか?!わたしの部屋の盗撮を!」
「もう、目新しいものは、何もありません。
アカネさんが、全く面白いことをしてくれないので…。
もう、カンパニーに情報売っちゃおうかと思ってるところですよ」
明らかに、オオヌキさんもイライラしていた。
「面白いおもちゃじゃないんです。彼らは…」
「ふぅん…おもちゃじゃなくてもいいから、興味を満たしてくださいな?それが、共謀してるパートナーに対する礼儀でしょ?」
脅迫だ。
パートナーなんてとんでもない。
犯罪をバラすから、言うことを聞けと言われてるに等しい。パートナーという言葉を使って。
ここで引いたら、つけ込まれる。
何をしたらいいかとか訊くのは愚の骨頂だ。
話題がそれを許すか否かになってしまう。
あくまでも、許すのはうちの盗撮だけだ。
(それだけでも、最大の譲歩なんだ…)
「じゃ、わたしのためのわるもんを調達してよ!百崎胡桃さん…?」
あえて、戦隊IDネームで呼びかける、そんないやらしさの演出。
「わたしも、研究対象のわるもんが欲しいなぁ…。今度、白鵬地区で、パニック起きるからその時に捕まえてよ。ひとつさー」
オオヌキさんは、上目遣いで笑った。
既に、19:00をまわっているのに、アルコールはテーブルに乗っていなかった。
それが、冗談で終わらない真剣さを伝えていた。
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