第3話

そのメイリスと名付けられた白い何かは、元々物でも者でもなかった。


確固たる個がある訳でも、自我がある訳でもない。

そこに〈ある〉のかさえ、不明だった。


叡智がある訳でも、天下無双の力があるわけでも、巨万の富を約束できるものでもなく、悪魔のように、対価の代わりに願いを叶えることも出来ない。


誰からも、求められず、生まれたのに、産まれたのに必要とされなかった。

やがて、それ«メイリス»は消え去る予定だった。

誰からも、認めて貰えぬまま、恐怖を抱くことも、泣くことも、怒ることも、楽しむことも、喜ぶことすら知ることを許されず、消えゆく運命だった。


消えてしまうその前に、誰かが、呼んだ。


今まで、何も、誰も呼ばなかった。〈それ〉に確固たる【個】を与えてくれた。


初めてそれは、己を知った。


初めてそれは、感情を知った。


初めてそれは、思った。


「嬉しい」


己を呼び出した者は、カイリと名乗った。


己には名がなかった。


すると、カイリは名をくれた。


消えるはずだった己に、何も無かった己に。


その瞬間、それに、いや、メイリスに力が宿った。


必要とされるための力が。


己を呼んでくれた、名付けてくれたその存在を護るための力が。


その名は、【知恵】。


全ての過去や未来を、有り得る全ての可能性を見通すことの出来る能力。


名付けた人を、カイリを護るため、起こりうる全ての可能性を見通したいという、めいリスの意思がこの力を発現させた。


そして、その意思はカイリを護る力となり、メイリスに宿った。

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願う少年と誓う少女〜目指すは英雄!無双の力魅せ付けろ!! ノーリ @lv999nmrbt

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