徹さんへ
徹さんへ
拝啓
同じ家に暮らしているのに、季節の挨拶はいらないわね。
このようなお手紙を書くのは、何年ぶりでしょうか。学生の時分、初めてあなたにお手紙をいただいた時、何とお返事を書けばよいか、とても困ってしまったのを覚えています。ことばがうまくないから、読みにくかったでしょう。ごめんなさいね。
今日は結婚記念日です。あれからもう五十年です。いろいろなことがありましたね。
大きな喧嘩も、小さな喧嘩も、何度もありました。怒ると外に出て行ってしまうあなたは、いつも帰ってくるときに幼い子どもたちにはお菓子を、私には花を一輪買ってきてくれました。なんだか照れくさくて、どんなに怒っていてもあなたを許してしまいます。
あなたはわかっていてやったのでしょうね。でもきっと一番照れくさかったのはあなたでしょうから、知らんふりをしていました。
あなたが定年退職をして、子供たちが巣立って行って、ふたりきりになってもう十二年になります。
私は嬉しいのです。毎日あなたの顔を見られて、毎日あなたにご飯を作ってあげられて、幸せです。
まだきっと長生きをして、これからも一緒に暮らしましょう。
いつも感謝しています。ありがとう。
かしこ
あて名のない手紙 朝霧 了 @ryo_asagi5656
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