エピローグ
気が付いて目を開くと、先ず眼に映ったのは、白い天井であった。首を少し左右に回すと、仕切りのカーテンや、点滴のスタンドが眼に入る。
「おう、気が付いたか?」
声のする方に顔を向ける。我妻刑事の顔が間近にある。
「なんだ、我妻さんか」
「なんだとはなんだ。俺で悪かったな」
「もう助からないと思ったのに、俺、生きているんですね」
「危機一髪のところで助けてやったのは、この俺だ。日本橋警察署がすぐ近くだったから、何とか間に合ったんだ」
悟郎は、首を回して辺りを見渡す。
「残念だな。紗希さんはいない」
「はぁ、ここは一体どこですか?」
「救急車で運び込まれた病院だよ。傷は大したことなかったが、有毒な煙を吸ったのが何やら大変だったらしい」
左の足首と太股、それに右の上腕が包帯でがっちり固められている。
「そう言われてみれば、今も喉が痛みます。それより紗希さんは、無事ですか?」
「紗希さんは、別の病院で療養中だ」
「えっ、どうしたんですか。怪我かなんか?」
「いや、そうじゃない。紗希さんも煙を吸ったんで、医者の勧めで入院したんだ。でも心配ない。今日、明日にも退院するそうだ」
「それならよいのですが、あぁそうだ、上月はどうなりました」
「自分の胸を刺したが、すぐに救急搬送して、一命をとり止めた。回復次第、拘留の上、送検する」
「そうですか」
「まぁなんだ、警察にすぐ連絡しないなど問題無きにしも非ずだが、あんたのお陰で、俺が担当する殺人事件が、一挙解決、犯人も確保出来た。警視総監賞は間違いない」
「それはよかった。そのうちあの銀座のクラブでお祝いしましょう」
「おう!望むところ、ウエルカムだ」
「あなたの驕りでね」
「うーむ、それは・・・まっ、いいか」
我妻が去り、入れ替わりに史郎がやって来た。
「なんだ、元気そうだな」
「ご挨拶だな。何が元気なものか、大変だったんだぞ」
「さっきここにいたのは、我妻刑事?」
「あぁ、今度、彼の驕りで飲むことになっている。お前も一緒にどうだ?」
「あの刑事なら面白そうだな。いやそんなことはどうでもいいんだ。今日はお前に聞きたいことがある」
「なんだ、急に真面目な顔して」
「お前、約束破って抜け駆けしたろう」
「約束? 約束っていつかのランチの時のアレか? 」
「何とぼけているんだ。紗希さんのことだよ。二人は好い仲なんだろう。白状しろ」
「うーん、いつとはなく、そんな仲になったみたいだな」
「この裏切り者が、どんと豪勢に奢れよ」
史郎は、それだけ言うと、悟郎の返事も待たずに、さっさと病室を出て行った。
~第1話 完~
「Dream come true 羊が見る夢」ヘッドハンター矢吹悟郎シリーズ第1話 虹岡思惟造(にじおか しいぞう) @nijioka
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