後編

「アルティメットは2028年のオリンピック種目になるかもしれないんだよねー。」


 相変わらず緩く山田さんはそう僕らに説明してきたのは2020年の夏。ヘルシーに蒸しあがる程暑い体育館内でそう言う。


「まぁそうなれば君たちがしてるガッツも注目を浴びてアルテの代わりに種目入りして、もしかしたら代表入りも夢じゃないよねー。」


 本心がイマイチ分からないが、指導だけは本気だから四ヶ月経った今でも未だに掴めない山田さん。


「じゃあ改めてスローの復習ねー。」


 バックハンド。俺が初めて受けたやつ。一般的な投げ方で力強く、投げ方次第では高速フォークのように落ちる。


 サイドアーム。人差し指と親指でそれぞれ円盤の内側と外側を摘むように持ち、鞭を打つように体の外側から投げる。コース狙いにはもってこい。


 サムフリップ。親指の腹を円盤の内側に這わせて野球のオーバースローの様に投げる。力もダイレクトに伝わると同時に捕手の手前でスライドする投げ方。


 ピンチスロー。親指と人差し指の脇で摘む様にアンダースローで投げる。投げ方と回転によりダイレクトでは取りづらいものだ。


 まだまだ細かいルールや駆け引きなどはあるが、今はただ純粋にこのフリスビーを使った競技にのめり込みたい。


 だってまだほとんどなにも分かっちゃいないし、出来ていない。まだまだしたい事、出来ない事は山ほどある。


 日々の生活に足りなかった気合い、ガッツをまずはこの競技で呼び起こそう。


 自分はまだこれからだ、今生まれたんだ。


 夏の、うな垂れる熱気に支配される体育館内で、それ以上の熱を帯びて平太は汗を垂れ流しながら動き続ける。



 高良平太は今、熱中してた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕が生まれた今年の夏。 さばかん。 @dayama0524

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る