中編

 屋内に入ると一台のテレビデオが置いてあり、その前に案内される。


「すこーしこれ観て待ってねー。」


 説明も僅かでその人はすぐにまた外に出て行く。


「おい、岩田。俺まだ入るなんて言ってないぞ?そもそもどこだろうとサークルに参加するつもりないんだけど。」


「まぁまぁいーじゃん。今日くらい付き合ってくれよな。」


 どうせ帰宅してもする事もないので言われるままに、今では珍しいブラウン管に流れる映像を見始めた。


 中々どうして、というか編集の仕方もあるのだろうが面白そうに見えてしまった平太は、初めは流し見るつもりも徐々に前のめり気味に見入る。


 フリスビーによる競技の説明VTRだ。


 どうやら外で行われていたのはアルティメットというもので、アメフトに似ている。今自分達の横でドッチボールの様にフリスビーをぶつけ合っているのはガッツ、他にも読んで字の如くのディスクゴルフやフリスビーを自由自在に回して動き回るフリースタイルというのもあった。おまけ映像ではやはりフリスビードッグも映っていたが、平太の感想は、犬可愛いだけ。


 一つの道具を使用する競技でこれほどの種類があるのに驚く。と同時にこれならばなど、淡い期待が一瞬だけ平太の心に広がりをみせたがそれは彼自身によってすぐに消滅した。


「お二人とも見終わったかなー?じゃあ折角の機会で早速だから、何かやってみよっかねー?」


 またあの先輩がいつの間にか戻ってきて提案をしてきた、相変わらずのゆるい態度で。


「じゃあ…」


 岩田の何でもしてみたく決めかねる態度を瞬時に察して、平太は


「ガッツをしてみたいです。」


 と割り込んで意見を述べる。


 半ば強制的に引っ張ってきたツレが、希望を述べたことに対して驚きを隠せずにいたが、元から自分の興味のあったことに友達も食いついてきたことが嬉しかったようで、岩田も何も言わずそのままガッツを体験する運びになる。


「じゃー、一回投げてみよっかー。」


 先輩、もとい山田さんは練習していたメンバーを集めてことの運びを説明。分かりましたと彼らは距離をとり五人が横並びに配置につく。


「14メートルが基本の距離なんだ、ここから投げて相手が取れなきゃ君の得点。届かない所に投げたり、フリスビーが届かなければ彼らの得点なんだー。」


 ざっくり説明されフリスビーをまずは平太に手渡される。


 思っていたより小さく軽い。これを取られないように投げる、難しいのでは。加えて意外と遠く感じる。


 考えてはみたものの考えているだけでは仕方ないと、早々に思考を止めた。左手でフリスビーを構え、思い切り前方の五人に向けて放る。


 円盤は平太の力を一身に受け、回転をしながら床から一定の高さで平行に滑るように飛んでいき空を切って一直線に進む。


 先輩は、体の正面から見れば一本の線に見える物体を右手で弾き上げる。瞬間、他の四人がその叩き上げられた、下から見上げると今度は円の形をしたモノを取り囲み、まるでお手玉のように片手で押し上げ徐々に勢いを殺す。最終的に回転もなにもなくなり、その中の一人に片手でキャッチされた。


 訳も分からずその動きを見ていた平太は、ただただ見ているだけ。


「はいオッケー。こんな感じでガッツはフリスビーを片手でしかキャッチ出来ないゲームでーす。続いて取る側にまわりましょかー。」


 有無を言わさない流れで今度は補球、ならぬ補円盤のポジションへ。但し位置についた所で目の前に畳一畳くらいの大きさのネットが運ばれる。


「一応、念のためねー。」


 と言われ平太はあまり感じなかったプライドが傷付く。俺を誰だと思ってんだ、こんなの無くても上手くいけば取れるし、最悪避けられる。なんて思いは思うだけに止め、形だけでも構えをとる。


 指名されたガタイのいい先輩が構え投げる態勢に入る。同時に投げる時には遠いと感じた距離は、今度は一気に近くに思えた。先輩は思い切り振りかぶって投げる。


 投げた瞬間の円盤はよく見えた、ただ速い。これならネットなんてなくてもイケるかもしれない。平太は物理的に取れないと分かっていながらも獲物の捕獲態勢を取る。しかし投げつけられたそれは一瞬で目の前にくると同時に僅かながら円盤二、三枚ほど急激に落下してきた。そのままシュルシュル音を立ててネットに突き刺さる。平太の構えた手はそれより大分上にあった。


「いいねー君ー。サウスポーだし、体験でも初心者でもそのキャッチしようとする姿勢。かなりいいよー。」


 褒められているらしいが、平太はどうでもよかった。意味が分からなかった。たださっき心に広がりかけた期待ではなく、火が、いつからか忘れ燻り消えたけていた熱が心を焼いていた。


 参加せずに羨ましそうに見ていた岩田の横へ戻ると、平太は言う。


「俺、ここに入るから。岩田も入れよな。」


 自分の興味があるものに友達も興味を持つのに嫌がる人などいない。岩田は当たり前だろとただ返した。

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