僕が生まれた今年の夏。
さばかん。
前編
高良平太は退屈していた。
幼少より勉強も運動も出来た平太は、努力という努力をせずに生きてきたので何かに対する熱量だけは、周りよりずっと少ない。
だから特にこれといった部活動には文武ともに参加していなかったし、その度に友達はおろか教師陣に
「高良は『宝の持ち腐れ』だな」
などと無駄に自分の名字と諺をかけられた台詞を、愛想笑いも尽きるくらい言われ続けた日々を過ごす。
あっと言う間ほどは短くなかったが、何かに対して熱を帯びさせる時間を平太に与えるまでには短い小中高校生活も順調に終了し、そしてまた順当に他県の大学へと進学。
見慣れない街は刺激的で、全てが魅力的に感じ、発車時刻も気にしないでいられる電車や家族と足並みを揃えずに済む自分だけの住まい。少し離れればそこはもう地元とは全く違い、見上げなくても分かるような空を狭くしている何の為に建っているか不明なビルやらが立ち並ぶ、俗に言う都会がある。
しかしいずれも平太を満たさない。
器用貧乏は案外何にでも適用されて、引っ越し後二日で一人暮らしには慣れ、三日で街にも心は馴染んだ。あとは入学までただ耐えるしかなかった。
大学生活初日、唯一自分の力だけではなんとかならなそうな友人作りもあっさりクリア。人見知りも克服していたし、少し話してしまえばコミュニケーション能力自体は低くないの平太なので問題にはならず。
ただ大学生と言えばのサークルなどは少しも入るつもりはなかった。
だからゼミで一緒になり、気の合った岩田から
「なぁ、気になるサークルあるんだけど一緒に行こうぜ?」
なんて誘われても、誘いを無下にしないだけで後で適当に断り文句をつけて入らないつもりだった。
ありきたりな運動系のものとか、あとは活動自体適当で呑みがメインのパリピサークルかなんかだろうと、偏見だらけの考えで平太は岩田の後に続いて歩く。
グラウンド方面に歩いているのでサッカーかな、と歩みを進めるとやっぱりそれらしい人が多い。
だがそれらしいのは人数だけで、ゴールも無ければ使っているものも違った。
形は『球』ではなく、『円』だった。それに手で持ち投げて飛ばしている。
平たく言って、平たい形のフリスビーだった。
岩田はマジであるじゃん、と知っていた様子で驚きと安心を足して二で割って、そこに喜びを乗じたトーンで独り言を漏らす。
平太は物珍しいスポーツを目の当たりにした多少の驚きだけ、こういう競技もあるのか、犬くらいじゃないんだなくらいだけであった。
「入部希望者ですかー?いや、サークルだから入部じゃないよな…まいいや。うちに入りたい人ですかー?」
グラウンドと歩道の境目に立っている平太達の斜め前方から適当そうに話す男。体と顔だけこちらに向けている。
「そのつもりです」
え、そうだったの?見に行くだけじゃなかったのか?と思いながら平太は勢いよく岩田の顔を見た。
「じゃあ体育館でもプレーしてるから、そっちで説明するよー。」
歩き出すその先輩らしき人の横に岩田はついて行く。実は父親が経験者で多少の知識と技術があるとかそんな話をする二人の背中を足取り重く、渋々平太は後を追った。
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