Porrimaー17ー
多分、俺の態度から複雑な心情を酌んでくれたんだと思うが、ネアルコスが少しだけ庇って、とりなしてくれた。
「いえ、プトレマイオス兄さんもですよ。ラケルデモンに対し、国土を削減させ、こちらの支配下に加えるなら、メタセニアの復興は重要な戦略のはずです。名目上とはいえ、その国王の任務をアテーナイヱ人の小者に任せられますか?」
「……その点では同意する。だが、処理の方法については、時間もあるんだし正当な手続きに則って行った方が、結局は良いと思うんだが」
俺が強く言い返さずに――曖昧に誤魔化したものの、表情は正したからか、プトレマイオスも強くは釘をさせなくなったようで、そんなありきたりの事を困った顔で口にしている。
「まあ、そうですね。今回の派兵に関し、不備が明らかになればその責任を追及できますから」
ネアルコスが人好きのする笑顔の中に微かに毒も混ぜて、俺とプトレマイオスに微笑んだ。
既に、敗北するようになにかを仕込んでいるのかもしれない。が、戦闘の結果如何に関わらず、戦後になにかでっち上げるのも難しくは無いし、結果が変わらないなら手法は任せた方が良いだろう。
「ただ、それも一時凌ぎだろう? エレオノーレ殿には、早めに結婚をして貰う必要がある」
プトレマイオスは真面目くさった顔でそう告げたが、ネアルコスは目を瞬かせた後――。
「……それで、どうするんですか?」
不思議そうな顔でプトレマイオスを見上げるネアルコス。ちゃっかりと、右手で俺の服の裾を引っ張りながら。
「いや、だから……。折角だし、エレオノーレ殿を側室とすれば」
プトレマイオスは、真顔で俺に視線を向けるも、即座に形の良い眉を歪ませている。
多分、素直に言うことは聞かないんだと悟っている顔だな。
自然と、プトレマイオスを見詰めていたネアルコスの視線も俺へと向かうが……。
正しい選択ではないことがわかっているのに、俺は額に手を当て俯いて視線を地面へと逃がしてしまった。
ここで、あっさりと同意できるのなら、こんなにも拗れなかった。
エレオノーレの結婚に関して、いつか考える必要があるとは分かっていた。でも、今じゃなくても良いと考えていた。アデアの件がなければもっと先送り出来ていたはずだった。キルクスが余計なことをしなければ、その事実を意識する必要もなかったはずだ、まだ。
なにか展望があるわけじゃないけど、でも、もっと時間があれば……。
多分、ネアルコスのものだと思うが、小さく嘆息する音が聞こえ――。
「そもそもアデア様を、もう少し上手く……この兄さんは御せなかったんですかね? 現状、処置なしですよ。必ず、どこかで反目が起きます」
「いや、アーベルは初婚だし、そもそも、婚約自体が初めてだろ? それに、少年従者の時もそうだったんだし、まして女の扱いなんて――」
俺が落ち込んだからか、それを気遣ったんだと思う。どこか冗談めかした二人の会話が耳に飛び込んできた。
「っつーか、俺になにも訊かずに、よくそれだけ勝手に婚姻の話を進められたよな」
顔を上げると、からかってはいたんだと思う、が、貶している気配は無く、どこか楽しそうな二人の顔が見えた。
「バカ、お前のためだ」
俺のためって言うか、
「はいはい」
どこか呆れ気味にそう返事をするが、ネアルコスが気を回してキルクスがエレオノーレに求婚している一件を教えてくれた以上、二人に甘えてばかりいるわけにも行かない。俺も少しだけ……感情に関する部分でこそ無いが、エレオノーレとの結婚が難しい理由を……。いや、言い訳ってつもりじゃなく、そう、仲間との相互理解を深めるためにも、動機について口にすることにした。
「……あのさ」
「どうした」
「エレオノーレとだけは、そういう話、進めるなよ」
プトレマイオスとネアルコスは、俺の答えが意外だったのか、軽く目を見合わせてから「なにか、理由があるのか?」と、プトレマイオスが表情を引き締めて、訊き返してきた。
「ラケルデモンでは、兄に嫁いだ女性を、兄の戦死後に弟が娶ることは普通にあるんだ。というか、戦死の多いラケルデモンではそうするのが普通なんだ」
うむ、と、奇妙に一致した……どっか不思議なおかしさのある動きで頷いたネアルコスとプトレマイオス。
まあ、他国の婚姻制度に関しては、あんまり馴染みはないだろうし、そういう反応になるのも止む無しか。俺も、マケドニコーバシオ式の一夫多妻制に関して、そういうものだといわれれば、心の中では首を捻りつつも同じようにしていたと思うし。
「俺に今後なにかあった場合、アデアが俺の異母弟と再婚し、ラケルデモンを直接マケドニコーバシオ王族の配下に置くのは全く問題ない。ただ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます