Porrimaー10ー
俺がここにいた期間は短かったんだが、俺を覚えている権力者や金持ちも少なかったようで、すぐさま人波に囲まれえてしまった。簡単な挨拶の合間に、兵士を志願する少年や子息からの挨拶を受ける。
そして、今回大陸側から移ってきたプトレマイオス達の紹介を行う。
具体的な何かを約束したわけじゃないが、最低限顔見せがすんだかな、といったところで、アゴラにおける夜宴準備のため退席しようと、エレオノーレの周囲へと王太子と
そこで、王太子による挨拶で人を散らす。
エレオノーレは、会議中もなにか言いたそうにずっとちらちらとこっちを見てきていたが、いざ隣に来てみれば、王太子やプトレマイオスに緊張してか、どこかもじもじしていた。
まあ、目の負傷に関してもネアルコスに耳打ちされていたようだし、何度聞かれても失った目玉は戻らないので、今更改めてそれを訊く必要がなくなったってだけかもしれないがな。
すると、エレオノーレではなく、ネアルコスが俺の左側へと顔を向け、訊ねてきた。
「兄さん、お隣の美人さんはどうしたんですか?」
そういえば、ネアルコスも生粋のマケドニコーバシオ人ではないと言っていたし、俺と同じくミエザの学園時代にアデアとは会っていなかったんだろう。まずは無難に王太子の親戚とでも答えるべきかと悩んでいたんだが――。
「ああ、アーベルの妻だ」
俺が言うべき台詞を決めかねているというのに、プトレマイオスがサラッと勝手に答えあがったので、訊いたネアルコスが、即座に噴き出している。
あの色恋沙汰が大好きなネアルコスが、からかいもせず、真顔で、ぶは、なんてらしくない品のない噴き出しかたしているのだ。
いや、そんな態度される心当たりも山程ありはするんだがな、ちくしょう。
「式を挙げてねえだろ」
俺の右側でネアルコスに答えたプトレマイオスを睨めつけるが、いずれするだろ、とでも言いたいのか、軽く肩を竦ませられてしまった。
ラオメドンの反応は、ちょっと分からないが、概ねミュティレアに残してきた仲間は驚いているらしい。まあ、アルゴリダに向かったのは戦争の切り札を入手するはずだったのに、婚約者連れて来たなんて言ったらそうなるのも仕方がないのかもしれないが。
ただ、俺は、婚約に完全に同意してるわけでも無くてだなぁ。
ふとそこで、エレオノーレが、椅子の上で身動ぎするのが視界の端に映ったので、顔を向けてみるが、エレオノーレは目を丸くして、椅子から立ち上がろうと前傾した姿勢で止まっていた。
「……なんだよ?」
他意がありまくりなその格好に目を細めて訊ねるが、エレオノーレからはいつまでも返事が返って来ない。
なので、気恥ずかしさもあってつい怒鳴ってしまった。
「おい! 聞いてるのか?」
エレオノーレの肩に手を伸ばそうとするが、ネアルコスの方が反応が早かった。
「あ……ダメです! 医家を」
ネアルコスが、エレオノーレを椅子に凭れかけさせ、声を張り上げ……場が、騒然としだした。
慌てて俺も駆け寄るが、エレオノーレの息が確かに上がっている。ネアルコスの顔を覗きこむと――。
「エレオノーレさん、過呼吸」
うん、なんか、死ぬようなものではなかったので、若干、気が抜けてしまった。
「なんだそれは。布でも口に当てとけ」
うろたえてしまったことも含めて、ぶっきらぼうに言うと、ネアルコスに眉をひそめられてしまった。
「心労が溜まってたんですよ。どこかの気侭な兄さんのせいで」
いや、……うん、アルゴリダへと行くまでは確かに俺の我侭なんだが、アデアの件に関しては、俺のせいではないと思うんだが。
普段余りネアルコスは不機嫌な表情を見せないので、なんか、罪悪感を感じてしまう。その上、アデアも――。
「例の、前の妻か? どこかの国にもいたよな? 女にだらしない男が。それをお前はどう思っているのだ? ん?」
俺の紅緋のクラミュスの裾を引っ張りながら、しかも、敢て俺に視線を向けずにそんなことを呟いている。
確かに、俺がアデアと出会う切っ掛けとなった件も、元を質せばマケドニコーバシオの現国王が結婚ばっかりして後継者をはっきりさせないからであり、そういう意味では今の俺も大差無いのかも知れないが。
「いや、アデアも、そう……ん――」
言い訳……まあ、確かに俺が行おうとしているのは、言い訳か。だが、それさえも思い浮かばずに、かといって、肯定も否定も出来る状況でもなく、変なオチがついてしまった状況で、俺は額に手を当てて、現実逃避した。
向こうでなにがあったんですか? と、ネアルコスが後発の
プトレマイオスが、俺の右隣でやれやれと肩を竦める傍ら、王太子の高笑いが響いていた。
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