Kornephorosー9ー

 開け放った城門から、騎兵が突入してきた。

 王太子とプトレマイオスが先頭集団で、四列の騎兵を従えている。騎列で守られているとはいえ、相も変わらない度胸の良さだ。

 とはいえ、俺達先遣隊の脅しが充分に効いているためか、通りに人影は全く無かったし、敵の反撃も既に組織だったものではなく、こちらの兵に襲われて突発的に抵抗しているぐらいだ。

「騎兵に見惚れるなよ! 石畳で舗装された道には出るな、進軍の邪魔になる。俺達の仕事はいつもと同じだ。屋根伝いに跳んで、路地に目を光らせろ」

 指示を出しながら、港へと疾走する。

 おそらく、こちらの意図を完全に理解している王太子が港、プトレマイオスがアゴラとその周辺の議場等を制圧するはずだ。

 だが、王太子を俺よりも早く港に着かせるわけにはいかない。を失ってしまうから。

 十名ほどの近習だけを連れ、建物を無視し、一直線に桟橋へと向かう。

 都市計画に沿って連なる家々の屋根は、整備された道とそう変わらない。ある程度の商業都市なので、材質も石造りで踏み抜く心配も無さそうだった。

 良く晴れているせいか、海風が強く俺達に向かって吹いていた。


「居ました!」

 対外交易用の倉庫の屋根へと飛び乗った所で、声が響いた。

 右から、三つ目の長い桟橋。高価な絹のヒマティオンを纏い、冬用の羊毛を茜色に染め上げた外套を羽織っている一団。

 この町の指導部とまではいかないのかもしれないが、財力的に充分な発言権のある人間と判断する。

「殺せ! 突入した初撃で全て始末するんだ」

 命令に、なぜと問い返すものはいなかった。無抵抗の人間でも殺せる人間を、俺は兵士に選んでいる。


 屋根から飛び降りると、おそらく漕ぎ手として使うつもりだったのであろう奴隷が――逃げるように道を空けたので、足を緩めず、擦れ違いざま、刃で撫でるように三人を斬った。それから一気に間合いを詰め、抵抗しないことを示しているのか、武器を持たず両手を挙げた良い身形みなりの連中の服を――朱に染める。

 自分の獲物を片付けてから、改めて周囲を見渡せば、俺の兵隊しか残ってはいなかった。奴隷も、その主人も、主人の家族も全て斬り捨てられている。

 うむ、と頷き、笛を吹かせた。

 俺の軍団兵が主要道路の警備を止め、港に向かって動き出した。


 王太子が、騎馬で港へと乗りつけ――。それと時を同じくして、正門が騒がしくなった。決戦が済み、現国王軍が入城したんだろう。

 名残惜しいが、剣と槍を打ち合わせる戦闘はこれで終わりだ。

 次は……。

 論述を駆使した、騙し合いの戦争だ。

 しかも、王太子の御膳で、仲間のヘタイロイ相手を相手にし、現国王軍に参観させるんだ。とびっきりの喜劇で悲劇な役者を演じてやらねばな。

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