Kornephorosー2ー
あの夜を経て――。
いや、その翌朝……というか翌日の昼だな正確に言えば。
ミエザの学園の全ての主だった者――
まず、王太子の異母兄の結婚の阻止に失敗したこと。
次いで、現国王のマケドニコーバシオ貴族の未亡人との恋愛結婚が同時期に強行――これに関しては、国王と国内貴族との結婚が前例に無いこともあり、あちこちからかなり不満が出たようだが、強引に捻じ伏せたらしい――されること。
挙式の準備として、相手の家や縁者の戦果を盛るために、北部のトラキア征伐を北部の都市からの要請を受けて王自らが救援するという名目で行うこと。
そして最後に……。
王太子とその母、そして、それに連座し、ヘタイロイの一部が国外追放処分となるらしいとの情報だ。
らしい、というのはまだ仮の話で、現国王が強引に進めているだけで、多数派工作中――実際、ミエザの学園を閉鎖し、
だから、追放者の名簿も、王太子派の有力貴族から横流しされた仮の物である。
そもそも、追放に当たっては、先の話に出た現国王、それに王太子の異母兄の結婚式という華やかな舞台を目眩ましに、裏側でこっそりと行われる計画らしく、詳細は掴みきれていない。
…………。
正直、その話を訊いて、現国王を討つべし、という声でミエザの学園は満たされた。
士気も軍備も錬度も充分だった。
確かに、正規軍は規模でこちらを勝るが、広いマケドニコーバシオの国土に分散しており、新都ペラの警備隊やそこに至る関所の兵士を相手にした場合、攻略は比較的容易に思えたのも事実だ。
しかし、まだ、時期ではない、と、皆の不満を抑えたのも、王太子その人だった。
正当性の問題から皆を説得する王太子。
本音では、むしろ、急襲の情報を内通者が漏らし、現国王を討ち漏らした場合のリスクを危惧していることを、俺は知っている。
あの夜――、俺達はもうひとつの計画を詰めた。
「
と、王太子ははっきりと告げた。
反論の無かった俺も頷いた。
ミエザの学園は一枚岩に見えるが、その成立においては現国王が王太子を新都ペラから引き離すために整備させた町だ。ヘタイロイには、既に戦功のあるアンティゴノスをはじめ、現国王に取り立てられた者も多い。年齢的にも、王太子よりも年上のヘタイロイが多い以上、なんらかの密約が既に現国王との間であって不思議ではない。
もっとも、既にこちらに鞍替えしている連中も、少なからずはいるみたいだがな。
ただ、黒のクレイトスのように、今回の北伐にあたり現国王からも騎兵隊長等の役職を新たに与えられた人間がいる以上、年若くとも灰色としか判断出来ない人間が多いのも事実だ。
「甘んじて追放を受けるのは、それを炙り出す意味もある」
表情と声色から察するに、ただ殺すだけじゃないだろうな。
現国王は排除すると決めている以上、内通者の処分は、その後のヘレネス統一作戦の人事に関わる問題になる。この時点で二心ある人間には、先陣も後陣も任せられない。王太子はそう判断した。
別に、俺もその意見を支持しないわけじゃないが……。
「通者を見つけても、すぐに殺す意味は薄い」
あ? と、俺そっくりの歪んだ顔をした王太子に、ニヤリと笑って補足した。
「無能な内通者なら、有能な内通者を辿る道標にもなるし、偽情報を流すことも出来る。どうせなら、敵が嫌がることをしてやるべきだ」
「……まあ、今更我慢する年数が少し増えても変わらんか」
と、若干良いわけじみたことを言って王太子が表情を戻す。
現国王にしろ、ヘタイロイの内通者にしろ、それなりの立場のある人間だ。こちらの支配下に組み込めないなら殺す、が、ただ殺すだけじゃ儲けは薄い。
仲間も、それ以外も、利用し尽くしてこその俺達だ。
どうすれば、最も確実にマケドニコーバシオを……ひいてはヘレネス全土、そしてアカイネメシスに続く世界を奪えるか。
二人で、話し合った。
長い時間。
そして、俺達は表面上、現国王の計画を利用し、また、ヘタイロイの目も欺くための一枚目の謀を仕込み……最後に、俺と王太子の二人だけがこの北伐中に進める作戦をも纏め上げた。
誰にも、邪魔させない。
最後に……いや、最初に最短でこの世界の王権を握り締めるのは、俺達だ。俺達にしか成しえないことだ。
結局……。
王太子の現国王への消極作に対し、身内で血を流すことを嫌うという選択を支持したのは、約三割程度だった。
その批判的な声をかわす意味も込め、全てのヘタイロイに対し、レスボス島攻略作戦及び、その前段作戦として北伐作戦中のアテーナイヱ領の外港都市ダトゥの船舶確保作戦が高らかに発令された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます