夜の終わりー4ー
適当に甲板で――、ざわついている野営地の人間を眺めていると、背後から近付く人の気配を感じた。エレオノーレじゃない。足音が大きい。しかし、男ほどでもない。
結局、コイツも拘束されていなかったんだろう。
溜息しか出てこないな。
「なんだ? 窃盗犯」
「ほら、やっぱりダメですよね」
窃盗の犯罪者であるはずのティアが、こうして出歩いているのが気に食わない。それ以上に、この俺の前に出て来たってのにどこか余裕のある態度が気に食わない。一発分殴って黙らせてやろうか?
拳を握りしめて見せれば、船倉でのこと御思い出したのかティアは縮こまった。
ふん、と、嘆息して話を元に戻す。
「なにがダメなんだ?」
「いえ、距離感が微妙なウチなら、なんとか話は出来るんじゃないかって」
下らん浅知恵を働かせたバカ共と、それをはっきりと真顔で口にしたティアの両方に対して、思いがけず、つい噴出してしまった。
「死ね、と、伝えとけ」
半笑いで命じると、はい、と、バカみたいに素直にティアは応じた。
だが、一呼吸分の沈黙が間に入ってくると、途端に気まずそうな顔になり、おずおずと訊ねてきた。
「その……ウチは、もう出歩いてて、良いんですよね?」
良いわけねぇだろ。
「悪い。が、誰も俺の言うことなんて聞かないだろ。それに、より大きな問題が進行中だ、お前程度に構う余裕は無い」
溜息だけでティアのバカさ加減を吹き飛ばす。食事代は、このバカを保証したヤツから引いてるはずだ、なら、別にもうどうでもいい。
ってか、目の前の不幸から酒に逃げる程度のヤツに構う時間は無い。ティアは無いモノとして再び考え事を始めるが……。
「これは――、素朴な疑問なのですが」
ティアを睨みつけるが、今度は怯まなかった。真顔ってわけでもないと思うんだが、単純に疑問を口に出しているだけって顔だ。
解決策に繋がる可能性は薄いが、なにかの糸口になるかもしれないと思い、顎で癪って続きを促す。
「アナタは、なにを目指しているんですか?」
「……は?」
随分と今更な質問に、開いた口が塞がらなかった。コイツは、誰からなんの説明を受けたんだ?
そんな俺の様子を知ってか知らずか、ティアは相変わらず監督官に質問するガキみたいな顔で訊き続けてきた。
「いえ、ウチの視点からなんですけど、アナタ方は、どちらかといえば慈善団体的な側面がかなり強い集団だと思うんですよね。商売も奴隷の売買なんかは行わず、寄港する諸都市とも友好的に上手く関係を保っていまうすし。奴隷解放も、結局は国力の増加につながるんじゃないんですか?」
俺が返事を考えている間に、ティアは今度は若干慌てたというか、やや媚びるような調子も混ぜつつ再び口を開いた。
「いえ、分かります。陸の拠点がない中、船も増やさずに人を増やしたのが問題なんですよね? ただ、新航路もあるんですし、それも今回釘をさしたことですぐに好転していくんじゃないんですか?」
……コイツ、思ったよりお喋りで落ち着きのない性格だったんだな。第一印象から、もっとのんびりした感じなんだと思ってた。
しげしげと見詰めると、再びティアは口をつぐんで縮こまった。
喧しいと感じているのは伝わったようだ。
たっぷりと間を置いてから、俺はうんざりしているのを隠さない表情で結論を追求してみる。最初の質問には、ティア自身が答えている。ということは、なんらかの予感が合ってそれを核心に変えたくてここに来たと考えるほうが自然だ。
「なにが言いたい?」
「前以って明言しますが、ウチは、アナタがこの集団の中で、リーダーに最もふさわしいと思っています。のですけど、アナタだけがこの集団で異質だとも思うんですよね。他の誰とも違う場所を目指しているような――」
「失せろ」
思わせぶりな目でこちらを窺うティアに短く命じれば、あっさりと下がっていった。
「はい。勿論そうします。……怖いので」
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