Miaplacidusー7ー
懸念だった内部の問題も処理したので、今度こそ本当に休もうとしたら――。
「少し、やり過ぎでは?」
「大将、情報が錯綜してる」
キルクスとドクシアディスに捕まった。
「窃盗の容疑は確定している。問題ない。ティアは、船の内部でのなんらかの工作を行っていた可能性もある。拘束の理由は、隠さず船員に伝えろ。裁判は明日行う」
うんざりしているのを隠さずに、二人に命じる。キルクスは苦笑いで、ドクシアディスは露骨に不満そうな顔をした。
「アイツの身辺を保証したのはニッツァだったな? 一時的に、女衆のリーダーを解任し、捕縛しろ。処罰は、ティアの処遇を決めてから追って通達」
「正気か⁉」
ドクシアディスが大声を出したせいで、周囲の人目を引いた。船倉でのいざこざのおかげで、船室も人の動きが多い。俺の私室を親指で示すと、二人は素直に従った。
二人が入ると同時にカーテンを閉めたが、聞き耳を立てている気配ははっきりとわかった。
「俺が冗談を言っているように見えるのか?」
ドクシアディスの鼻っ面に叩きつけるように、さっきの話を再開する。
ドクシアディスは、俺を真っ直ぐに見ることはせずに、部屋の隅に向かって吐き捨てるように言った。
「厳し過ぎる」
「あぁ? 容疑が確定しているのを、放置するって言うのか?」
「そうじゃない。ただ――」
ドクシアディスは、助け舟を求めるようにキルクスに視線を向けたが、キルクスは目を糸のように細く引き絞り、困っているよりかは非難の色が強い表情を俺に向けただけだった。
なんだ、と、問い詰める前に焦れたのかドクシアディスが再び声を上げた。
「ティアに同情する意見の方が多い。その……大将が、殺す理由を無理やり探してきたって思われてる。ティアの窃盗も、なにかの誤解だと」
なんの言いがかりだ? と、鋭くドクシアディスを睨みつけるが、船員達の感情を代弁しているだけなのか、複雑な顔をされただけ。
「少し前に、記録と在庫が合わないのは、調理班の水夫も確認している。身柄を押さえた時点で、ティアはかなり酔っていた。お前は、それを無罪だというのか?」
「処罰が厳し過ぎる、と、言ってるんだよ」
「もし、だ。盗み食いだけでなく、毒を仕込まれていたとしたらどうだ?」
ドクシアディスの胸を突くと、予想以上簡単によろけられた。尻餅はついていない。悪ガキが叱られている時にするみたいな反抗的な目を、俺に向けてはいるが。
「あの船からは、そういう品も出ている。そうだな?」
キルクスは、渋々と言った様子で頷いた。
――ッチ。
いまいち使い物にならない幕僚二人に向かって舌打ちを投げつけ、盛大な溜息と同時に俺は吐き捨てた。
「島を回って奴隷を買い取ってやったのは失敗だったな。全体の気が緩んでる」
この旅の始めと比べ、人もモノも金も増えたからか、危機感が希薄になりつつあるらしい。
……この前の戦闘で、死傷者が少なかったせいもあるか。
しかし、新参者に人気で負けるとは、随分と皮肉な話だな。
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