Canopusー11ー

 やったか、と、思う間もなかった。

 キルクスの船が先制の一打を与えはしたが、衝角が金具かなにかに引っ掛かったのか、離脱の足が落ちた。見えはしないが、続く状況は容易に予想できる。

 飛び移られてるな。

 クソ。どうにも、負け癖というか、ツキが落ちてるなアイツ。

 実力があるのは前提条件だが、そういう運の要素も戦場では勝敗を左右する大きな要因だ。そして、一度ツキが落ちると、意外なほど連続して不運が続く。性質の悪い神様の悪戯のように。


「味方の横を擦れ違え、俺が行く!」

 横付けするわけには行かない。こちらの船にまで飛び移られれば、どうしようもなくなる。俺は二箇所に同時に存在できはしない。指揮系統が乱れて全滅だ。

 それに、この船にはエレオノーレがいる。アイツは、勝てない癖に前に出るだろう。少年隊相手ってわけじゃないんだから、死ぬ可能性は……高い。それは、避けたい。


 こういう時だけは正確に俺の意図を汲んだのか、ドクシアディスが敵艦に接しないようにキルクスの船を盾にしつつ針路を微調整していく。

 俺は、甲板の兵士に向かって声を張り上げた。

「俺以外は、下がって船室の出入り口を固めろ。乗り移られたら終わりだ! お前等じゃ束になっても相手にならねえよ。距離は長めにとって、投石攻撃で飛び移ろうとしているのを優先的に撃って海へ落とせ」

 兵士達は、まず船室の出入り口を封鎖する形で三列に盾を展開し、両舷に二列で広く展開を始めていた。

 まあ、無難な陣形ではあるが、そもそもコイツ等が相手になると思っていないので、ドクシアディスの操船次第、か。形だけ整えて見せて、キルクスの船に侵入した連中を牽制出来れば上々、といったところだろう。

「擦れ違った後、乗り移った敵を制圧できない場合は退く。輸送艦に撤退準備の連絡を行え、その後、もう一度だけ擦れ違え。浸水している敵艦は、早足は使えないはずだ。乗り移れる連中だけを回収して逃げる。いいな!」

 ドクシアディスのやや不満そうな視線が向けられたが、戦場で議論して方針がぶれる拙さを理解しているのか、意見の上申をせずにドクシアディスは自分の仕事へと戻っていた。

 乗り移られている数によっては、全員を助けられないというか、既にかなりの戦死者が出ていてもおかしくない。

 それでも、見捨てずに救援に行くのは、なにも善意や優しさなんかじゃない。俺が戦いたいからだけだ。母国の正規軍と。


 船の舳先で跳躍の準備に入る。

 離脱中のキルクスの船と、逆進で追従しようとしている敵艦。そして、俺達の船が、三本線に並ぶ。

 船の揺れを利用すれば、俺ならば充分に跳べる距離。海に慣れていないラケルデモン正規軍では、跳躍を躊躇う距離。中々の間合いのとり方だ。


 はたして、俺は強くなったのか、否か。

 組織を作ったことが正解だったのか、否か。


 ここで、確かめてやる!

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