Canopusー8ー
「この島は、攻められませんよ」
キルクス達の船に乗り込んだ俺に、開口一番、キルクスがそう告げた。
さっきの話から、アカイネメシス対策をしている島ということで、既に戦略目標から除外してはいたが、ついでなので、その理由を目で訊いてみた。
「内陸に、城塞都市があります。普段は必要最低限の維持兵しかいないようですが、いつでも使える状態になっているようです」
まあ、港の守りから察するに、そういうことなんだろうな。産業と交易を重視すれば、防衛力は落ちる。人や物が通りやすく整備されえてるってことは、同じように兵士と糧秣も行き来しやすい。水際戦闘ではなく持久戦狙いなのは間違いないか。
しかし、その場合、本国からの補給線は伸びるだろうな。なにか特別な対策があるのか? この辺りの都市間での同盟とか……。
「内陸は、山地になっているのか?」
「広い島ですので、山もあれば平地もあります」
「訊き方を変えよう。要塞は、山城なのか?」
キルクスは、はぐらかす時は準備をしていない時だな、と、気付いた。
「すみません……そこまでは」
まあ、攻めるべきじゃないと結論付けた後は、その後の偵察には力を抜いたんだろう。良くも悪くも切り替えの速さと狡猾さ、そして、不都合な事実を誤魔化す癖がアテーナイヱ人の特徴だな。
「ま、いい。攻めないという判断は支持するからな。ここに来たのは、二つ指示を出しとこうと思ってな」
キルクスの表情が変わった。
「僕以外の人間も集めますか?」
「いや、お前だけで構わん。難しい話じゃない」
しかし、キルクスは俺の難しい話じゃないというのを信用していないのか、やや引き攣った苦笑いを浮べた。
まったく、と、嘆息してから俺は言った。
「この島のアヱギーナ人奴隷の購入は可能か?」
俺の言いたいことを察したのか――いや、まだ様子見の顔だな、キルクスが笑みを浮かべつつも目を細めて訊き返してきた。
「奴隷の購入は可能ですが、それは、市場でですか?」
ふん、と、皮肉を口の端に浮べて俺は答える。
「アヱギーナ人がうろつけるとしても、だ。ラケルデモン側に編入された国家の連中を、都市の中枢の業務に当たらせ続けるか?」
「いえ……」
「これから回る島で、出来るだけ過去に政務に従事した、もしくは、都市の有力者の使用人だったアヱギーナ人奴隷を買い取れ」
ニッと、話の展開を察したキルクスが、さっきよりも嬉しそうに言ってきた。
「僕は、奴隷の開放によりドクシアディスさんたちの信頼を得ると同時に、不正を行っている島に対し、市民を敵に回さずに侵攻する正当な理由を手にいれらる……というわけですね?」
「その通りだ。が、買い取る奴隷の数は、この島以外ではドクシアディスと相談して数を調整しろよ」
「この島で僕に一任する理由は?」
意外な部分――俺としては、すぐに分かると思っていた部分――を訊き返され、俺は目を瞬かせてから、なにを訊いてくるんだ? という顔で答えた。
「お前の発案にしておかないと、アヱギーナ人のガードが下がらないだろ。次の都市からは、商談に同席させるんだしな。分かったら、とっとと働け」
俺の返事に目を丸くしたキルクスだったが、なぜかすぐに破顔して答えてきた。
「意外と良い人なんですね、アーベル様は」
「あん?」
どっかで聞いたことのある……しかし、まさかキルクスから言われるとは思っていなかった一言に、ついガラ悪く返してしまった。
しかし、さっきの――多分、手柄と信頼を譲るような命令のせいか、キルクスの表情は変わらなかった。
「エレオノーレさんの言ですよ」
俺は、もうキルクスの話を聞いていなかった。
命令するべきことはしたからだ。
今回の乗艦。二番艦へと戻り――とはいえ、今回の商談に同席できないし、あまり姿を見られるのも得策ではないので、船室で寝転がった。
どこか、悶々とした気持ちを抱えたまま。
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