Canopusー7ー

「どうだ?」

 午後になってキルクスが――ああ、そういえば、アクロポリスでもそうだったが、こいつらの公的機関は正午を過ぎないと動かないんだっけ? ――、いいことでもあったのか、満面の笑みで俺達の船へと乗り込んできた。

「好調ですよ。武器に鎧革、目標金額以上です。それに、量もかなりさばけましたからね。これだけまとめて売り出せば、普通は値崩れするんですけど」

 羊皮紙の書類を改める。最後にこの町の印章もされているし、きちんとした公的機関かお抱え商人に卸せるんだろう。俺等の素性や、品の産地を隠すのに怪しげな連中を仲介しないで済むのはありがたいな。

 次いで、品目と金額を改めていくが……。

「良くやった、と、言いたいところだが、最初の寄港地で三割も卸して続くか? まあ、売れる時に売って置くのは鉄則だが。……ん?」

「どうした?」

 ドクシアディスが、早足で俺の横に並んで書類を覗き込んで来る。呼びもしないのに寄ってくるのを見るに、かなり気になっているんだろう。

 変な取り引きではない、と、ドクシアディスに首を横に振って見せてから、俺はキルクスに向き直った。

「食料は足りてるのか? ここは。……ああ、漁船も多そうだしな」

「この島は、アカイネメシスとも近いですから」

 その答えだけでは説明になっていないと思った。

 取り引きがあるって事なのか、軍事拠点として物資を集積しているのか。まあ、おそらく後者だとは思うが、な。しかし、農業国ではないアテーナイヱが、ここの物資をどこから調達しているのか、という疑問は残るが。外港都市ダトゥ経由か?

「準備に抜かりは無いみたいですよ。なにかある前提で、備蓄を進めていたそうですので」

 要塞、というには、この港はやや貧弱な気もしたが、島の内部に篭城用の砦があるのかもしれない。それに、戦争準備を常にしているなら、ここにちょっかいをかけるのは得策じゃないな。

 頭の中でこの町を戦略目標から除外し、更に突っ込んだ質問を続ける。

「武具が入用なのは?」

「戦争での供出だそうです。兵士を出す際に、武装もコチラ持ちだったようで。それと、ですが――」

 ちらっとドクシアディスを見たキルクスが、一度言葉を区切り、俺に御伺いを立てる視線を向けてから提案してきた。

「次からは、ドクシアディスさん達も同行しますか?」

「あん?」

「一部のアヱギーナ人は、ラケルデモン統治に反対し、アテーナイヱに参加しているようですし、商売の場に居てもそう問題は無いみたいです。……ですが――」

 言いたいことは分かったので、それで構わない、と、気にしていないふりをして俺は答えた。

「俺は船で大人しくしてるさ。やばくなれば、一目散で船を目指せよ。騒ぎを聞きつければ、俺も暴れてやるしな」

「ご理解が早くて助かります」

 慇懃に頭えを下げたキルクスに「町の状況について、もう少し聞きたいことがある。一度、お前等の船に行くぞ」と、告げて俺は船を降りた。

 はい、と、キルクスがその後ろに続く。


 俺達の船では、ドクシアディス達が売り渡す荷の積み下ろし作業へと入っていった。

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