Aspidiskeー8ー

 見送りに出していたキルクスの護衛も戻り――不審な人影は無く、マケドニコーバシオの商人にも不審な動きは無かったらしい――、態度を一変させ、乱暴というとアレだが、いつも通りの口調と仕草でキルクスに問い質す。

「キルクス! マケドニコーバシオから一番近い島は?」

 キルクスは、苦笑いを浮べた後、淀みなく答えてきた。

「中継基地や交易する上で損のない、それなりの規模という意味でしたら、レームノス島ですね。そこからでしたら、既存の航路で北エーゲ諸島からキクラデス諸島を経て、クレーテまで路が開けますよ」

 しっかりと準備をしてきたのか、それとも常識の範囲なのか、知識としてのその辺の部分には不安は無さそうだ。

 後は、春まで待ちたがるこいつらをどう動かすか、か。

「ふむ……」

 腕組みし、もっともらしく頷いてから、キルクスからやや視線を外し、全体に向かって俺は問い掛けてみる。

「俺等、単独では難しいか?」

 向けられる顔は、一様に厳しかった。

 そして、一番最近参入したという性質上、嫌な役回りを押し付けられる形で口を開いたのは、またしてもキルクスだった。

「一回の航海で成功するとは言えないですよ。航路の開拓は、海の深さや潮の流れなんかも判断して誰もが通れる道にしなければならないのですから」

「到着するか否かと言う意味では?」

 そう、俺達は航路の開拓にそこまで拘らない。一度たどり着き、手頃な場所を見つければ、二度目は全力突撃で占拠するしかないからだ。隙がないようなら他の場所を探しはするが、出来る限り、一度目に偵察、二度目で攻め落とすという流れを変えたくはなかった。

 兵の質や士気の問題もある。

 敗北した後で盛り返せる余力はきっと無い。

 なら、後先考えずにまず一度勝利する必要がある。

 だからこそ、下準備をしっかりとする必要も。


「……知らない場所ですので、天測をしながら、探りながらですよ?」

 脅すように訊いても、答えは変わらなかった。やっぱり、拠点を得た上で何度かアタックしてみないことには上陸もままならないようだ。


 まあ、キルクス達の船の修理が済むまであと二十日ある。その間に、なにか海へと追い立てる口実は探すか。

 もっとも、他の船乗り――この町に逗留している他国の連中――にも話を聞いて本当に危険だというなら、待つしかないんだがな。

 しかし、雨がエーゲ海に流れ込むだけで、そんなにも船が動かしにくくなるもんかねぇ。


 待機、か。

 嫌な言葉だ。

 淀めば腐る、とは、ジジイの言だったか、それともレオの言だったかな。


「しばらくの方針は、各自、マケドニコーバシオからの東方航路に関する情報収集だ。冬の航海方法についてもな。場合によっては、近海へと漁の名目で船を出す演習も行う。しっかりと準備しておくように」

 微妙な空気ではあったものの、そう命令すれば、集まっていた面々は、素直に復唱して其々の持ち場へと散っていった。

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