Azmidiskeー7ー
事情聴取――尤も、他のアテーナイヱ人もキルクスに聞いたのと同じ情報しか得られなかったが、裏を取れたので善しと、思うことにする――と、町の上層部への連絡――単なる戦災難民の亡命で、この国へではなく、文化的に近い俺達への合流希望者だと伝えた――に一日を使い。その間に、全体集会の連絡も全ての構成員に伝えた。
ここでは人数的なこともあり、他の都市国家とは違い、女も政治に参加させている。だから、町で一番広い宿屋の食堂を貸し切っているんだが、人があふれ、吹き抜けになっている二階部分にもぎっしりと人が詰めている。
少し余裕があるのは、俺達指導部がいる、急ごしらえの段の上だけだ。
「さて、では会議を始める。第一の議題は、亡命アテーナイヱ人の処遇について」
のっけから場がざわつきだした。
まあ、それも仕方が無いことだろうが。
あの戦争から、せいぜいひと月が過ぎた程度だ。怨み辛みは薄れていないだろう。黙れと言ってもこういう場面で素直に黙ることが無いのは分かっていたので、俺はひそひそ囁く声を無視して会議を始めた。
「一番、捨てる。これは利も害も無い」
人差し指をピンと立て、単純に合流を断ってこの港湾都市イコラオスから放逐する、という、毒にも薬にもならない案を出してみるが、案の定、賛同するヤツはいなかった。
まあ、場合によっては、人を集めて復讐に来られるかもしれないんだし、後々害になる確率もあるしな。
「二番、殺す。お前等は恨みを晴らせるし、船や物資が手に入る。ただ、抵抗されれば多少の人的被害は出るかもしれない」
ちなみに、一番の案の応用で、殺さずに船や荷物を奪って捨てた場合でも、この山の多い国の城門外に冬に放り出すことになるんだから、この二番の案と大差ない。連中もそれは分かっているだろうから、命だけは助けるっつっても殺す場合と同様の抵抗をされるだろうしな。
反応を見るに、この案を支持している人間は少なくないな。全体の一割程が大きく頷いている。
それなら、と話を続ける俺。
「三番、仲間にする。裏切りの可能性が捨てきれないが、人質を取った上で当面最前列を勤めさせることで、戦闘になった際のお前等の犠牲を減らせる。……かも」
チビを顎でしゃくって――エレオノーレは強硬に反対したが、こいつを含めたアテーナイヱ人で括るのを俺が押し通した――人質としての人材を示しつつ、三隻目の船の有効利用という観点も示してみた。
現状、アテーナイヱの連中が合流できなければ、三隻目は動かせない。漕ぎ手の数が足りないからだ。人を雇うとするなら、この交易港湾都市イコラオスで募集するしかないが、ここに来てさらにテレスアリア人まで混ぜるとなると、風紀の維持に支障をきたす可能性もある。
無論、それは、コイツ等を混ぜても同じことかもしれないが、ただ、アテーナイヱとアヱギーナは、元々は同じ民族が長い時間を掛けて別れたものなので、文化や習慣は非常に似ている。テレスアリア人よりかは、歩調を合わせ易くはある、だろうな。戦争によるわだかまりの部分を抜けば。
俺が喋り終えると、最後の最後に付け加えた『かも』という台詞が気に入らなかったのか、おい、とか、あちこちから突っ込まれたが、こればっかりは断定できないので仕方が無い。
まあ、負けないように努力はするが、いかんせんどの連中も甘っちょろいからな。演習の結果を見るに、コイツ等の方が若干は動けるとは思う。しかし、数は少ない。
俺は、勝敗は運命の女神の思し召しだ、と、肩を竦めて見せてから――。
「さて、どうする?」
挑発するような目で会場を見渡す。
「はい」
助けた村から来た若いのが、まず手を挙げたので、指差して発言を促した。
「大将の意見は?」
無邪気な顔で、一番訊かれたくないことを訊かれてしまった。つーか、まずは手前の意見を言えよクソが。
ったく、煮詰まった頃に言うつもりだったんだが――。
まあ、いいか。
「別に、どれでも」
「どれでも?」
若いのが俺の言葉をそのまま返して、小首を傾げた。他の連中も全く分かっていなさそうな顔をしている。
仕方が無いので、頷き返して俺は続けた。
「どれでも良いから、お前等に諮ってるんだろ。絶対に必要なら、頭ごなしに命令してる。まあ、仲間にするってんなら裏切らないように監視してやるし、殺すってんなら分断してぱっぱと首刎ねてやるよ。ああ、無いとは思うがただ捨てるってんなら、船に向かって追い立ててやるがな」
ごくごくいつも通りの事を言ったんだが、微妙に場が凍り付いてしまった。
ハン、と、いつも通りに鼻で笑って一歩下がれば、俺に代わってエレオノーレが前に出た。
「殺すのは簡単に出来る。やられたことをやりかえしたいのも分かる」
珍しいことを言うな、とは思ったが、コイツもいつまでもバカなままではいないだろう。多少は学習するか、と、どこか子供の成長を見守る親のような気持ちで発言に耳を傾けた。
「でも、それはまたいつかやり返されることに繋がるんだ。難しいことなのは分かるけど、共存の道を探していきたいと……私は思う」
一度言葉を区切った際に俺の顔をエレオノーレが見た。もっとも、最後に呼びかける際には、目の前に集めた皆の顔へと視線を戻していたが。
意図が分からずに、エレオノーレの背中を見続けるが、エレオノーレは俺に詳しく話すつもりは無いのか、そのまま真っ直ぐに会議場を見つめていた。
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