Azmidiskeー5ー

 話が横道に逸れた。ドクシアディスからキルクスに顔を向け直し、咳払いひとつの後、更に質問を続ける。

「しかし、アテーナイヱはそんなに拙いのか? 言っちゃあなんだが、ラケルデモンは一部が海に面しているとはいえ、海軍は然程じゃないはずだぞ? 政策でも重視していなかったはずだ。急に増強はできんだろ」

 陸は封じられても海上補給で人や物を引き込めそうだし、長期戦に持ち込めば和平へ持ち込むのは難しく無いはずだ。

 力攻めするにしても、あの城壁や二つの巨大都市の連携を考えれば、割に合わない損害が出るし、そうなれば、既に占領しているアヱギーナ本島の戦後処理に支障をきたすだろう。まともな指揮官は、そんな作戦を決行するはずが無い。

「港湾都市の真正面に、紐や木板を渡した船を横並びにして、封じています」

 俺の予想したことは誰でも考えられることなのか、やんわりと首を横に振ってキルクスが答える。

 ああ、それなら、海戦を陸戦と似た形で、行えるか。操船ではなく、近付いてくる船に乗り移って斬り伏せるだけなら、そう難しくは無い。

「乗り移りは完全にダメですね。降り立つ前に突き殺されます。衝角攻撃も、連結させている船は中々沈みませんし、突入した隙に逆にこちらに飛び移られ、損害甚大。外港都市ペイライエウスは、防衛のため、港湾機能の全てを停止させております」

「諸都市からの援軍は?」

「ラケルデモン遊撃艦隊に阻まれ、合流が出来ていません。報告によれば、水夫のアエギーナ人を鎖に繋いで奴隷水夫として使っているとか」

 レオの指揮か? ためになるな。信頼の置けない現地徴発奴隷の使い方といい、海を封じる作戦といい、ばっちりじゃないか。

「なぜだ? 奴隷兵として使えないだろ。非効率的な戦い方だ!」

 急にドクシアディスが、苛立ちを隠さずに怒鳴って話に割り込んできた。キルクスが、それとなく分かるほどに肩をビクつかせている。

 ふん、と、以前との立場や反応の違いに苦笑いしてから俺が説明する。

「寝首をかかれるよりは、船と運命を共にさせ、命がけで敵を沈めさせようってんだろ。ちなみに、陸は?」

 首を横に振るキルクス。

「ほとんどの主要都市は、周囲を攻囲陣で固められ、アリの這い出る隙間もありはしませんよ」

 まあ、だろうな。

 アテーナイヱまでの陸路は、弱小国かラケルデモンの衛星都市しかないんだし、進軍は、時間は掛かったのかもしれないが――多分、一部は俺とエレオノーレが逃げているとき既に移動を開始していたんだろう――難しくないだろう。

 ラケルデモンと露骨に敵対しているのは、北西の一部が接しているヴィオティアだけだ。かつては同盟を結んでいたが、話がこじれ、泥沼の報復合戦になっている。全面衝突はしていないが、確か、親父が戦死した、国境線の小競り合いを今も行っている、と、記憶している。

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