Alsuhail Almuhlifー12ー
「家捜しを始めろ。ここにある物は、あらいざらいかっぱらっていくぞ。金目の物は特に見逃すなよ」
結局、ただの見物人にしかならなかった連れて来た兵士を一瞥して、俺は命令する。
時間的に、日が落ちるまではまだ余裕があるので、手早く略奪をさせて、商隊の馬車は先に町へと向かっている軍団へ合流させようと思っている。
ちなみに、歩きの面子はここで一泊だ。
事情を知らない敵の一味が、外回り――商隊や旅人を拉致したり、追い剥ぎなんかの仕事――を終えて戻ってくるかもしれない。もし、残党がいるなら、それも始末して、完全に口を封じるつもりだった。
「なにも、皆殺しにしなくても」
どこか俺を責める調子の声が上がったので、お使いも満足に出来ていない商隊の連中を睨みつける。
「あ?」
「山賊も職業でやってるわけで、通行税を支払えば案外良好な関係も――」
庇うドクシアディスをフン、と、鼻で笑ってから言葉を遮って言い放った。
「この
不要な人間で、かつ、敵だ。
殺さない理由はない。
「味方に引き入れてもよかったのでは? こんな連中でも、多少は、戦えると――」
「無いな」
まだどこか食い下がってくる商隊の連中――もしや、懐柔されたのか? 後で誰か適当なヤツを使って事情聴取させた方がいいな――に、短く答え、軽く溜息を吐く。
いいか? と、呆れた目で解説を始める俺。
「優勢なときに調子付く程度のバカだ。自分達の価値も理解していない。この手の連中は、劣勢で踏み止まることなんてしねぇよ。逆に寝首を掻かれるのがオチだ」
コイツ等は、行きの通行税で満足すべきだった。多少の情報を得、かつ、人質も押さえたからって、自分達よりも規模の大きい集団に強気に出る格じゃない。
自前の武力の価値、政治的影響、そうした、分や身の程ってものを理解していないただの三下に過ぎない。
略奪にさらされていた村の連中を仲間に引き入れたのとは、わけが違う。
「まとめ役がいなくなったことで、この道は荒れるぞ?」
意見を曲げない俺に、少し厄介なものを見る目でドクシアディスが言ってきた。
「必要なものを買い上げた以上、もう一度この街道の先に商売に行く必要はないし、それに、それなら俺達で管理してみるのも面白いかもな」
ハハン、と、右頬だけを引いて皮肉な笑みを浮かべる。
「……正気か?」
「冗談だ。町の連中の耳に上がると拙いだろ。他所からのお客さんが、山賊になったなんてな。適当に町の浮民に声掛けて組織化させてやれ。たっぷりと、恩を着せて、な」
浮民は定期的な収入も無く、日雇いの公共事業で糊口を凌いでいる連中だ。情報を漏らしてやるだけで、喜び勇んで山賊へと鞍替えする。ここの連中から奪った毛皮の服や、粗悪品の武具なんかも――まあ、浮民が金を持っているとは思えないし、どうせ売っても二束三文なので、もったいぶった上で提供してやれば、こちらが間接的に支配するのは容易いだろう。
「極悪人だな」
どこか吐き捨てるように言ったドクシアディスに、酷薄な笑みを返す。
「だから生き延びられてんだろ、お前等が」
ドクシアディスは、もうなにも言い返してはこなかった。だから――。
「おい! 重症のヤツはいないんだし、商隊が連れてる荷馬車は物資優先だ。もう一度かっぱらいに来るのは、割に合わんだろ。歩けるやつはここで一泊だ」
アジトから回収した、獣の干し肉になめしていない毛皮、穀類、少量の貨幣を馬車に積ませ、細かく指示を出していく。
俺は元々馴れ合う気なんてなかった。
実績で支配し、成り上っていくつもりだった、のに。
そう、組織を運営する上での必要以上には、個々人に慮ってやるつもりなんて、始めから俺にはなかった。
……だって、今ここにはエレオノーレが居ない。
だからなのか? 命令を下す上で気が楽、というか、余計なことを考えずに行動を下に強いることが出来ている。
知らないうちに――エレオノーレをフォローしている内に、アイツが枷になっていた、の、かもな……。
すっきりしない天気の冬空に長く息を吐けば、軌跡が白く染まり、一瞬で凍てつく空気の中に溶けていった。
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