Alsuhail Almuhlifー11ー

 洞窟の中程に設けられた木の格子が、ドクシアディスの渡した金袋の中身を確認した山賊達の手で開け放たれた。商人八名に、護衛の軽装歩兵が四名か。もっとも、兵士の剣も槍も盾も奪われているので、着込んでいるものからの推察だが。

「全員無事か?」

「ええ」

 訊ねると、即答された。木の格子が開けられ、十数名の仲間が出てくる。これで全員なのか? と、ドクシアディスに目で訊ねれば、無言で頷き返された。

 成程、抵抗せずにつかまったのが功を奏したのか、死傷者は出ていないらしい。

 尤も、護衛の兵士が四名ついているのに、この程度の連中になにもせずにつかまったことに対しては、思うことが無いわけではないが。

「そうか……」

 俺は、答えると同時におもむろに、手近な山賊の一人の喉に腰のナイフを突きたてた。

「え⁉」

「な……あ?」

 表情を変えないまま、無造作に背中の剣を抜き、相手が態勢を立て直す前に俺の後ろにいた頭目の頭を叩き割った。

 半歩跳躍して間合いを取り、固まっている賊の四人――頭目の取り巻き、多分、ここの指導部だろう――を横に薙いで始末する。これで六、外の二十はすぐに入ってはこないだろうから、すぐに対処が必要なのは残り十九だ。

「た、大将⁉」

 悲鳴にも似た声で呼ばれ――クソ、狭い洞窟内だ、俺の長物を充分に振り回せない――、手近なひとりの胸を突き、その隙に向かってきたもうひとりの顔面を拳で打ち据えた。

「殺れ。ひとりも逃がすな」

 しかし、命じても、仲間のはずの連中は右往左往するばかりで反撃に転じようとする気配はなかった。

 まあ、外の連中を合わせても四十五人程度の山賊なんて、俺一人でも斬り伏せられるんだしいいか。

 ……そうだ、そういえば、ずっと昔にラケルデモンにいた頃に飼っていた二匹も、俺が戦っている時はどっかに身を潜め、勝負がついてからしか出てこなかったな。弱卒はそういうものかもしれない。自発的に動けるようになってはじめて一人前、ってとこか。

 しかし、未熟なヤツが急にそこまで育つと思えなかったし、一人も逃がしたくは無かったので、手早く独りで狩ることに方針を変える。

 殴って転がしたヤツを、敵の剣を拾って地面に串刺しにする。止めを刺す練習をする気があるのは、勝手に俺の後からコイツを斬るだろう。

 自分の長剣の柄を握る手を、右腰の横の位置まで下げ、深く腰を落とす。敵が抜剣した。刃の裏に身を隠し、右足を一気に伸ばして跳ぶように刃ごと突進する。目の前の殆んどの敵を巻き込んだが、殺せたのは少なそうだ。だが、大きく体勢を崩した敵は、ただの的でしかない。首を左足で強く踏みつけて折ったのが一人目、その踏みつけた足を軸に右足を上げ勢いをつけて頭を踏み潰したのが二人目で、手を地面に衝いて上手い具合に首を差し出すように顔を上げた三人目の頭を刈り取る。剣の勢いをそのままに二人突き、余裕のある状況だったので短く跳ねて、臥せったままだが死んではいない様子の男の背中に飛び乗る。肋骨の折れる、メキ、とか、ミシ、とかいう音が聞こえ、足元が唸りだした。

 フン、と、鼻で笑って敢えて止めを刺さずに、そこから届く範囲の敵に止めを刺していく。


 起き上がろうとして首を刎ねられたのが五人を数えた頃、転がったまま洞窟の外へ這い出そうとしているのを見つけ、土台にしていた人間の後頭部に近い首に膝を入れ脱臼させて殺し、這う敵を追いかけて背中から心臓の位置を突いて殺した。洞窟内は、これで制圧完了、か。

 一瞬だけ後ろを振り返って確認してから、駆け足で洞窟を出る。

 ありがたい!

 敵は異常を察知したようだったが、小屋の中で縮こまっているか、様子見に戸口の付近に展開しているだけで、逃亡を計ってはいなかった。

 これならいける。

 走る足を止めずに、自分の近くにいる敵から順に斬り伏せていく。所詮はただの山賊。殺しは脅しでしか使ってこなかったのか、一撃目さえ防げずに、ただ死体になって転がっていく。戦争の時に感じたような高揚感も、なにも感じない。これじゃ、ただの作業だ。

 つまらない、とは感じていたが、それは、元々俺がラケルデモンで日々の飯の為に殺していた頃から感じていた感覚でもあったので、そういうものと割り切って作業を進める。



 曇り空で太陽の位置は分からないが、雲を通した明るさがまだ残っている内に、敵を全滅させることに成功していた。

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