Alsuhail Almuhlifー10ー

 案の定というべきか、道は整備されていなかった。いや、人が行きかう事で背の高い草は生えず、踏み固められた土やロゼット状の草が、かろうじて細い低木の林と道を別けてはいる。

 冬だからか、木々は葉を落としていた。とはいえ、手入れされていないため、細かく別れた枝の上に雪が積もっており、視界は良好とも言い難い。

 森に逃げられたら厄介だな。

 討ち漏らしたヤツが報復の夜襲に来ないとも限らないし、その時に襲われるのが戦えない人間である可能性もある。

 アジトの地形次第で、ひっそりひとりずつ始末するか、どっかに追い詰めた上でまとめて殺すか決めようと思う。本当は、手勢があるんだし、包囲殲滅したいところだが、な。



「おい! 兵隊、いるんじゃねぇかよ」

 野太い声が雪山に微かに反響して聞こえて来た。

 ようやく到着か、と、周囲を確認するが、一軒の山小屋――周囲が若干開けているのは、近くの木を建築資材や薪にしているからだろう――しか、見当たらなかった。辺りを警戒している山賊は、三名。あまり大きな集団ではないのかもしれない。

 まあ、だったらなんで捕まったんだっていう話だがな。もしや、山越えの道で怪我でもしたのか?

「そちらが、人質に手を出していないとも、こちらを無事に帰すとも分からなかったからな。保険として十名、同行させている」

 ドクシアディスが俺に代わって――、と言うより、どちらかといえば、俺が自ら一歩下がった位置で様子を見る姿勢を崩していないから、ドクシアディスが代表のように振舞っている。


 静か、だな。やっぱり、人質を取っているというのは嘘で、既に殺しているんだろう。ラケルデモンの少年隊の懲罰房には、脱走者を入れておく場所もあったが、悲鳴や怒号が聞こえないことなんて無かったしな。

 では、早速俺流の遣り方で始末をつけるか、と、得物に手を掛けようとしたタイミングでドクシアディスが山賊に訊ねた。

「人質は?」

「こっちだ」

 ニイ、と、口を横に広げるようにして笑う山賊。

 死体と対面させようってんだろうか? 中々に良い趣味だな。

 ともあれ、地形や総数を把握するにはいいか、と、案内されるままに俺もついていく。小屋を覗けば、それに合わせたようにして山賊がぞろぞろと出てきた。

「お前さん等が、約束を破るかもしれねぇからな」

 そう言ったドクシアディスの近くにいる山賊がリーダーなんだろう。小屋から出てきたのが五名、小屋の裏手にいたのが十六名とロバ牽きの馬車が三台――積荷有り幌付き。多分、俺の所の商隊のモノだな――で、俺達を先導しているのが四。小屋の中の残りは、横になっているのもいるが二十で、合計四十五、か。

 ラケルデモンでの感覚がここでも通用するのかは分からなかったが、それなりに大きな規模だと思った。ラケルデモンで夜の奴隷狩りの際に鉢合わせたことのある山賊は、実働部隊十で、拠点警備が同数、雑用のために飼ってる奴隷数名って規模だったしな。

 尤も、ここの連中の質は、ラケルデモンの山賊と比べて格段に悪いが。


 俺は、てっきり小屋の裏手に墓を作って埋めてるんだと思っていたが、どうやら違ったようだった。近くの山賊に促されるままに視線を向ければ……。

 ハァン、小屋の裏の崖が洞窟になってるのな。元は熊なんかの冬眠穴だったんだろう。そう考えてみれば、コイツ等の身形――毛皮を殆んど加工せずに身体に巻いて防寒着にしている――のも納得がいくしな。

 猟師兼山賊ってところが実体か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る