Alsuhail Almuhlifー2ー

「有事の際の軍事同盟、それと、物資の優先的な販売権で一応、この都市の管理領域内での自由な商売の権利――もっとも、期間限定ですが、それを得ました」

 書類を片手にファニスからの報告に耳を傾ける。

 全体の会議じゃない。まずは俺とドクシアディス、それに主だった連中、おまけのエレオノーレだけで話を進めている。チビは、敵国人なので勿論除外。まあ、ガキの適応力なのか、同い年ぐらいの連中でつるんで、ちょっとしたガキ大将になっているらしい、と、エレオノーレから会議が始まる前に報告を受け、苦笑いで応じはしたが……。

「軍事同盟は、軍需物資の提供だけか? 部隊の派遣も含めての話か?」

 少し詳しく訊ねてみると、ファニスは若干恐縮した様子で返事をしてきた。

「はい。町の常備軍が八百、有事の際に武装できる市民が八百ですので、我々の出せる兵士の最大数である二百はそれなりに大きな勢力として――」

「待て。こちらの実数を伝えたのか?」

 やや眉間に皺が寄ってしまった。

 そして、それは周囲に気付かれてしまった。

「あ、いえ、具体的には。ただ、自分達の船を警備しつつ、乗組員の自衛が可能で、多少の過剰分があるところまでは把握されたと思います」

 ……ふうむ。

「問題か? この町とは友好的に接するべきだとオレ達は思っているが……」

 俺が返事をする前に、ドクシアディスがファニスを庇うように口を挟んできた。

 ちらっとファニスの様子を窺うが、どうもドクシアディスに向かって話したほうが安心してくれそうなので、顔をドクシアディスの方へと向けて俺は勤めてゆっくりと喋り始めた。

「ああ、それには同意見だ。ただし、同業者への情報漏れが怖い、な。基本的に、俺達は国を持っていない。お前等の母国も、現在は微妙な位置付けだしな。だから、共通法の保護外にいる。狩りの獲物としては、まずまずと見る向きも無いとは言い切れない」

 不安をあおるだけなので言ってないが、ラケルデモンの船が未確認ながらもこの都市に入ったらしいからな。

 あの吟遊詩人がなにかを誤認したか、こういう時によくある戦勝国の国名を語る海賊の一団かもしれないが、アテーナイヱからの航路を遮断しようとなんらかの圧力を掛けに来た可能性もある。ラケルデモンへの対抗策として、俺達を傭兵として置いておくという決定がなされたのかもしれない。

 むう、と、誰のものとも分からない重い唸り声が聞こえ、沈黙が降りてきた。


 一拍間を空けるが、なにか事態を好転させるような意見が出るわけでもなさそうだったので、俺は大きな声で話をまとめた。

「まあ、金を出すよりは良かったと思うことにしよう! 位置的に、ここで戦争が始まる可能性は低いんだしな」

 キルクス達と行動を共にしていた際に目を通した書類から、この町がアテーナイヱとの関係が薄いことは分かっているし、ラケルデモンとは尚更だ。

 貯蓄を崩すのは、今はかなりまずい。場合によっては、土地を買い取る――村単位の規模で売るところがあるとは思っていないが、戦争やそれに伴う飢餓輸出による飢饉で荒廃した地域なら、その限りでもないはずだ――方法での領土獲得の可能性もあるんだしな。


 そして、ようやく俺が待ちに待った軍事訓練の検討に入ったところ……。

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