Alsuhail Almuhlifー1ー

 商売に関しては素人なので、ドクシアディス達の意見を尊重というか、ほぼ任せる形で食料や日用品の追加購入のための商隊をいくつか近くの村へと送り出し、それと平行して船の修理を業者に依頼した。

 俺は知らなかったんだが、船という物はどうも頻繁に修繕作業がいるようだった。

 浜に完全に乗り上げさせた船の底を、業者の連中と一緒に見たが、成程、岩というか貝というか、なんだか分からない黒くて固いものがへばりついていたり、海戦の影響なのか、ささくれ立っている部分もある。

 表面を削って油をしみこませたり、場合によっては木を張り替えたりするらしい。

「案外、手間が掛かるものなんだな」

 船旅という物は、もっと、こう、楽で快適なもののようなイメージがあったんだが、実際に行ってみると、食事の問題に便所の問題、他にも雨季に入った今は、雪や嵐なんかの天候の影響で、行動の制限も大きかった。

 止めが船のメンテナンスと来たわけだ。金も掛かるし、存外非効率な部分もある。

 まあ、それを差し引いても、大量の荷物を早く運べるってメリットは理解しているんだが、な。

「沈没させるわけにはいかないだろ」

 ドクシアディスが、どこかぶっきらぼうに――海の男だから、船をバカにされたと思って拗ねたのか? ――俺に向かって言ったので、まあ、な、と、応じる。

「それに、普通はもっと不便なんだ。三段櫂船は。宿泊設備や倉庫、そして、戦闘時の速力をちゃんと保っているコイツは出来物なんだよ」

 はぁん、いまいち……というか、この船以外の船に関する知識が俺にはないので、比較は出来ないが、船に乗り続けている連中にとってはこれでも上等なんだと認識する。

 今更かもしれないが、そこそこは優秀だったんだろうな、キルクスは。

 いや、俺等にあっさりこの船を与えたってことから逆算するに、こいつは実験的な試作品で、今回の船旅と戦の結果から発展型を建造予定だったんだろう。

 始まった戦争で、それを繰り出せているか否かは……分からんな。っていうか、前の戦争が終わった直後に俺達が外港都市ペイライエウスで騒ぎを起こしているんだし、その責任で、案外あっさりと首を切られてたりして、な。


 面白いんだかそうでもないんだか分からない自分の思考に、自嘲気味にハンと笑うと、ドクシアディスに不審な目を向けられた。

 気にするな、大丈夫だ、と、手で制して宿へと戻る。今度は、送った商隊に関する書類確認と、交易都市外へと商隊を送る許可をくれた町のお偉いさんとの折衝の結果報告、だ。

 やれやれ、全然休まる暇がないな。

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