Naosー7ー
先にエレオノーレとチビを宿に向かわせ、民間人の移動も順次始めた午後。
「意外と甘いところあるよな、大将は」
船の中を書く部門のリーダーと共に改めていると、同じように各部屋の忘れ物や取り残されている子供や老人の確認を行っているドクシアディスが、そう話し掛けてきた。
「は?」
意味が分からず、かつ、雑談もそれほど好きじゃなかったので、適当に返すが、ドクシアディスそれに近くにいた漕ぎ手のリーダーのニキータに、ニヤニヤ笑いを返されてしまう。
どうも、俺があのチビを懐柔するために策を練ったと解釈しているようだ。
こっちは、全然そんなつもりじゃないんだがな。
「……まあ、いいか」
否定しても理解されるとは思わなかったし、そもそも誤解されたと所で得にも損にもならないので、放置することに決め――樽、水樽か? 蹴っ飛ばして見るが空のようだ。ひとまず船に置いて置けば問題なし――作業を進める。
「ん?」
俺の態度を不審に思ったのか、ドクシアディスが近付いてきた。船の暗がりで表情が読めなかったんだろう。
……ああ、あと、どうも俺は短気で通っているので、ニキータが後でぶっ飛ばされないか不安になったとか、そういう話だろう。
溜息を吐き、雑談に乗ってやることにする。煩わしいが、多分、これも部下を慮ってやる作業のひとつだ。
「お前等、エレオノーレが甘過ぎるし、潔癖すぎるとは思わないのか?」
曖昧に頷く気配が伝わってくる。微かな苦笑いの声はニキータだろう。
まったく、きちんと返事せずとも、そんな態度をするなら同意したも同じだろうに。
ふん、と、鼻で笑ってから俺は続ける。
「関わらせたくない場面で、あのチビ使って引き離しておけるだろ。ああ、一応、チビには監視をつけとけよ。場合によっては、だが、ラケルデモンに対してもアテーナイヱに対しても切り札に出来るかもしれない」
チビの身元ははっきりしているものの、これまでの扱われ方――政略結婚狙いだと踏んでいてキルクスにも確認したが、アヱギーナ・アテーナイヱ戦争中の立ち位置から、どうにもそれだけじゃないような気がする――から、なにか重要な役割、もしくは明らかになっている血筋以上のなにかを持っている可能性がある。
「切り札……ねえ?」
随分と眉唾だ、と、ドクシアディスの顔に書いてある。
まあ、現時点では俺もそんな大した利用活を見出せてはいない。上手く傀儡にすれば、アテーナイヱのアクロポリスが陥落した場合にどっかの島を分捕る大義名分――支配する正当性になる、かも。とか、そんな陳腐な案だ。
が、それを表に出して安く見積もられたくなかったので、肩を竦めて船旅で得た知識も交えて俺は演説してみた。
「手札は多いに越したことは無い。博打と一緒だ。それに、俺等にとっては道端の石ころ程度のヤツでも、相手によっては宝石と同じ価値を持つ場合もあるからな。ふん、これは、お前等商人の基本原則じゃなかったか?」
確か、貝殻を簡単に加工した品でさえ、海の無い内陸に運べば大金になるし、逆にどっかの山では宝石が石ころと同じレベルで川に転がっていると言う話も聞いている。要は需要と供給、希少価値の問題だ。
「違いねえ。御見それしましたよ、大将」
どこか冗談めかしてドクシアディスが俺をおだて、周囲から散発的な笑い声が上がった。
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