Menkalinanー4ー
微妙な空気になっていると、人が走る足音が聞こえて来た。咄嗟に戦闘態勢にはいるが、見えた姿は、味方の旗を背負っている。おそらく本隊からの伝令だ。
伝令は、俺の前に来ると、僅かに首を傾げ――それでも、畏まった調子で報告してきた。
「敵は、抵抗せずに降伏しました」
「交渉団が来るのか? それとも、指導部を本国に連行するのか?」
キルクスに視線を向ける。
キルクスは、正直、あまり面白くなさそうな顔をしているが――多分、これで俺等は敵対関係になったな。なら、殺される前に、とっととずらかるに限るか――一応、伝令の手前、取り繕った顔で答えた。
「まずは、将軍が武装解除を確認し、参戦した兵士への一次賠償金の交渉をしてからでしょうね」
また変わった制度だ。多分、二重三重に賠償金を毟り取るための法なんだろう。
「じゃあ、お前はさっさとアテーナイヱに戻れ」
「ええ。……戻れ?」
俺の言葉に同意したキルクスは、言葉尻に違和感を感じてか言い終えた後で小首を傾げて見せてきた。
「船を貰う約束だったろ? それに、このバカのせいで、追加報酬がこの村になっちまったんだ。手ぶらで帰れるか。味方の船がアレだけいるんだから、戦勝報告の連絡船に便乗していけよ」
目の前の村を指差し、次いで、移動し始めていた伝令――おそらく、これから上陸した浜へ帰るんだろう――の背中に視線を向け、反論を許さない口調で命じた。
やれやれと肩を竦めたキルクス。
言い返しても無駄と思っているのか、素直に伝令の後に続き――。
「あ! 漕ぎ手は残しますので、存分に」
ふと、何事か思い出した様子で肩越しに振り返り、俺に向かってそう言った。
アイツ等は、キルクスの子飼いの連中のはずだ。それを自分から遠ざけてどうする気だ?
「いいのか?」
問い掛ければ、やや論点がずれた返事が返って来た。
「まあ、僕個人の護衛や先遣隊は一緒に帰ってもらいますし、いないと困るでしょう?」
何気ない風を装ってはいるものの、核心を避けた物言いから、俺達を殺す命令を出したのだと分かる。問題は、それが、何時実行されるのか、だ。
アテーナイヱに戻る前に始末しろと命じていたら、少々厄介ではあるんだが……。
「分かった」
キルクスは俺が気付いた事に気付いているのか分からなかったから、俺は取り合えずそう返事だけをして背中を見送り、漕ぎ手の連中は先にあの味方の陣地まで下がらせることにした。
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