Menkalinanー5ー

「結局は狙い通りか?」

 ドクシアディスが、キルクス達と漕ぎ手の重装歩兵がこの場を離れたのを確認してから、訊いてきた。

 ここには『元』居留アヱギーナ人の若衆と俺とエレオノーレしか、兵士はいない。残りは、不安げな様子で俺達を窺う村人だが……。

「誤算は多かったが、お前等も充分に恩恵にあやかれてるだろ。ちっとは感謝しろ!」

 最後の最後でこじれすぎた状況に、やつあたりの自覚はあるが堪え切れずに悪態をついてしまう。

「してるっつの」

 ドクシアディスは、なぜか笑いながらそう切り返し――。

「で? 結局、どうすんだ?」

 目の前の怯えている村人を一瞥してから、俺に尋ねた。

 嘆息して、俺は前髪を掻き揚げる。


 ドクシアディスは、兵士達が略奪に走る姿を見ていた様子から、根っこの部分では略奪や殺戮を悪と見ていた部分があるのには気付いていた。が、必要悪と認識している以上、自発的に止める気も無いようだった。

 しかし今、また俺が憎まれ役になっちまった以上、後はコイツは善人顔をするに違いない。まあ、この村の連中とコイツ等の身内、アヱギーナ人同士で上手く連携させてひとつの集団を作る上では、その方法は悪くはないと分かってはいるが、な。

 アヱギーナ人の若衆は、不満がないって顔ではなかったが、一応とはいえ、こうしていられる機会を与えた俺に対する恩義も感じているのか、表立って不満を表明してくるヤツはいなかった。どちらかといえば行儀良く、整列して成り行きを見守っている。まあ、さっきまでアテーナイヱ兵といっしょになってお楽しみをしていた癖に澄まし顔してるのは、どこか腹立たしくもあるが。


 ……しゃーねーか、幸か不幸か場は整っちまった。手持ちの船が二隻で、かつ一隻はアヱギーナの船だし、人数的にもぎりぎりいけるだろ。人的資源も資産のひとつだ、と、思うしかない。例え民間人が多くとも、な。


「決まってるだろ?」

 肩を竦めて、ドクシアディス、村人、そしてエレオノーレへと順繰り視線を巡らせる。

「また、金にならねえ人助けをするしかないんだよ! まったく、とんだ貧乏籤だ。おい、村長を出せ! 良い条件を出してやるから、俺の謀に乗る準備をしろ!」

 やけっぱちに叫べば、ぽかんとしていた若い村人が慌てて村の奥へと駆け出していき、取り敢えずは殺されないと分かったからか、村の中も天地がひっくり返ったような騒ぎになった。

 これだったら、最初は脅しといた方が静かで良かったかもしれない。

 まあ、合意がなった後で引越しの準備をさせる手間が省けていいかもしれないが。

「アーベル⁉」

 俺の物言いが気に入らなかったのか、エレオノーレが突っかかってきた。

 それとも……ああ、二人で逃げてた時は、こうした場合で物だけかっぱらうように行動を改めたから、今回も金目の物だけを奪い取ると思ったのかもしれない。まったく、その程度の目的のためだったら、あんな人の恨みを買うような真似をするかっての。

「だから! ほっといたら、本隊の帰り際に略奪されるし、戦後の賠償で奴隷にされるかなんだっつの! いい加減、分かれよ!」

 全く学習しないエレオノーレに、苛立ちを隠さずに怒鳴りつける。

「あ、う。でも、その、悪いことは」

「人助けだっつったろ! 策も無いなら口出すな!」

 歯切れ悪く食い下がってきたエレオノーレだったが、もう一度そう怒鳴りつけると、しょげた顔で後ろに下がっていった。

 俺の案の概要をなんとなく察しているのか、ドクシアディスはニヤニヤしながらしょげているエレオノーレの方へと向かっていった。

 なんだか、それが面白くなかったので、釘を刺そうかと思った時――。

「それで、策というのは……」

 壮年だが、どこか食えない好々爺風のこの村の村長が出て来て、俺は舌打ちを飲み込み、ドクシアディス達にそうしたように、こいつ等にも同じようにそそのかし始めた。


「いいか? お前等が取れる道は三つだ……」

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