Menkalinanー1ー
「やれやれ、結局手柄はあの将軍にかっぱらわれるってわけかい?」
ドクシアディスが、どちらかといえば近視的なものの見方をした。俺が訂正しても良かったんだが、口を開いたのはキルクスの方が早かった。
「そうとは限りませんよ」
含みのある笑みを浮かべたキルクスに、ドクシアディスは首を傾げて見せた。
……いや、ただ首を傾げただけじゃないな。俺の雰囲気も察してか、不愉快に思っていることがはっきりとではないがそれとなく分かる程度に、顔を顰めてもいる。俺の狙い通りではあるが、戦友であることとは別にアテーナイヱへの遺恨もしっかりと根付いているんだろう。
ふうん、と、俺は満足そうに鼻を鳴らし、キルクスの様子を横目で窺ってみる。
キルクスは、ドクシアディスの態度に影響されてはいない様子ではあったが、さっき機先を制してしまったのを気にしてか、俺の出方を窺っているようなので、今度は俺が解説してやることにした。
「とっとと済ませて帰り、俺たちの援護が素晴らしかったから勝てたと吹聴すれば良い。っていうか、俺は最初からソレを狙ってたんだがな。労は少ないに越したことはない。それに、先遣隊の生き残りも、世論の操作に上手く使えるはずだ」
どちらかといえば、正面衝突というよりは
「じゃあ、ま、最後の掃除といきますか」
エレオノーレが眉を顰めるのを視界の端で捕らえたが――上陸してきた本隊の人間も負傷兵とその手当てなどで多少は陣地に入っていたので、陣地に放置して進軍するわけにも行かなかった。戦勝気分の弱卒は、なにをしでかすか分からない。エレオノーレの非常識さも、きっとそれを加速させる――、エレオノーレは特に声に出して注意したわけではなかったので、俺は気づかないふりをすることにした。
「それで、どうします?」
絶妙なタイミングでキルクスに訊ねられ、一瞬、エレオノーレに関することかと動揺しかけたが……。なんにことはない、これから攻める村についてのことらしかった。
「ふむ」
もっともらしく唸って、作戦を考えてみる。
正直、力攻めしてもどうにかなる事はなると思う。
俺は攻城戦に関しては、レオから伝え聞いた知識だけしかない。まあ、そもそも、これまで防衛線を指揮してきたのだって、分からない事はないと見せつけていただけだが。
後は、ラケルデモンにいた頃に、遊び半分で村人の大半を他の少年隊のやつらと共謀して殺したぐらいだ。
だから……、いや、だからこそ、か。小さな村と、取るに足らない警備兵の組み合わせが、どんな事態を招くのか、分からないわけじゃなかった。
そして、すでにそれを回避することが不可能だとも分かっている。
だが――。
正規軍と別行動しているので、エレオノーレもここにいる。というか、他においておける場所がない。拠点にも船にも、アテーナイヱの連中がたむろしてる。
だから、ついてこさせないわけには行かなかった。俺が近くにいれば、多少の事からは守れるからだ。
……いや、しかし、これから起こることは。
ふ――、と、長い溜息を吐く。
味方の損害を出さないため、そして、期待は薄くダメ元ではあるが、最悪の事態を回避する作戦は……。
「どんなに小さくても陣地は陣地だ。防衛設備もあるだろう。十人で一班を編成し、二班で偵察に来たと見せかけろ。わざと敵に発見され、逃走するんだ。残りは、道沿い……ああ、まあ、どこでもそうか。村の周りにある豆畑に二列で長い横隊を布いて待機だ。三列目は要らない。味方の肩の間から二列目の槍を出すんだ。一撃で全て殺せ」
テキパキと陣形を整えて行く俺に、キルクスから「随分と慎重ですね」と、声が掛かった。
「ここまで来て損害を出すことほど不経済なことは無いからな」
と、肩を竦め、戦死した際の恩給や戦勝手当ての給付について暗に示してやると、成程、と、キルクスはあっさりと納得したようだった。ドクシアディスは――、まあ、戦争の空気に飲まれてはいる様子だが、死傷者を出したくないという点では完全に俺と一致しているようだ。
もっとも、下っ端の兵士達は既に戦勝気分で、アテーナイヱ人やアヱギーナ人の差なんて無いに等しいようなものだったが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます