Hassalehー3ー
目が覚めると、もうすっかり日は昇っていた。黎明の内に目を覚ますつもりだったのに。
軽く頭を振ってみるが、どこかまだ奥の方が重い。いつもよりも長く寝たのに。いや、だからか? どうも慣れない用兵の仕事に、鬱憤が溜まっていたのかもしれないな。
しかも、弱兵の指揮だからな。頭が痛くなるのは当然か。
怒号や悲鳴は、まだ聞こえて来ない。
敵からの攻撃は、まだ始まっていないようだった。敵も味方も朝食の準備を進めているのか、近くからも遠くからも新しい一日が始まる前の喧騒が響いていた。
一度大きく伸びをして、それから俺は作戦小屋を出た。
……どういう結果になったとしても、本日中にはここを離れる。戦争に至る前の準備は充分だったと言えない以上、戦闘が始まる前の準備ぐらいは万全にしないとな。
「随分とゆっくりですね」
キルクスが、事実を言っただけとも皮肉ともいえるような顔で起き抜けの俺の顔めがけて言ってきた。
「ああ、規模は小さいとはいえ、軍の用務を一人でこなしているからな」
皮肉な笑みを浮かべていると、キルクスが頼らせていただいております、とでも言いたいのか、慇懃に頭を下げてから軽やかに笑った。
「名誉なことですよ」
「俺は、名よりも実を取る性質でね。その分は請求する」
肩を竦めて見せると、相変わらずですね、なんて声が返ってきたが、次いで発せられたのは――。
「実と言えるかは分かりませんが、今日の朝食は期待してくださいよ。なにせ、この陣には女性が二人も居るんですからね」
「まて……。飯は、エレオノーレが作ったのか?」
聞き捨てならない台詞を厳しく問い詰めると、キルクスは能天気な顔で返事してきあがった。
「ええ。出来ることはこれくらいだから、と、うちのイオと一緒に――」
戦場での娯楽は食事ぐらいなんだが……。食う前から楽しみではなくなるってのも、な。いや、まあ、食うけどよ。
またあの時のアレか。
「……まあ、背に腹はかえられん、か」
多分もう取り返しがつかなくなっているであろう事態に、諦めた声を出すと、どうしてそんな態度なのかとキルクスが不審そうに俺を見つめてきた。
「はい?」
「士気が下がってもしらんぞ」
「戦場で女性の食事が出るのですから、士気は上がるのでは?」
ふん、と、鼻で笑ってから俺は続ける。
「食ってからもその台詞が言えりゃあな」
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