Elnathー10ー
その後、簡単に部隊の編成を行い、ドクシアディス達を櫓の見張りに、そして、エレオノーレをチビのお守りの名目で小屋に残した上で、拠点の見回りの名目でキルクスと外へ出た。
「司令官は、殺しますか?」
味方の小屋から充分に離れ、かつ、聞かれる範囲に先遣隊の兵士も居ないことを確認してから、キルクスが表情も変えずに訊いてきた。
遠くから俺達の顔だけを見てるなら、ただの雑談にしか見えないだろう。
俺も普段通りの情報で答える。
「ああ。だが、今すぐは拙い」
キルクスは少し意外そうに小首を傾げた。
「なぜ?」
「お前の根回しが済んでないだろ? あの脳筋の指揮官じゃ、不満も多いはずだが……。すぐに始めたとして、先遣隊の懐柔にどのぐらい掛かる?」
「やってみないことには……」
少し自信がなさそうな顔をしたキルクスに、強い口調で俺の見立てを言った。
「夜までに、先遣隊の大多数をこっちに引き入れられなくては負ける」
難しい任務に不満そうではあったが、このままずるずるとバカ司令官に引き摺られるのが拙い事も理解してくれているのか、キルクスは低い声で答えた。
「……必ず」
ただ、その言葉の後に二人組みの先遣隊の兵士がこちらに向かってきていたので、キルクスは作為的な笑みを顔に張り付け、日常会話を装って続けた。
「それで? 不要になったモノはどう処分しますか? この拠点のゴミ捨て場に?」
――不要な先遣隊の指揮官は、どう殺しますか? 内輪揉めを誘って、みますか?
おそらく、キルクスの言いたいことはこうだろう。
だから俺も冗談めかして答えた。
「戦場で敵に向かって投げつけられればいいんだがな。まあ、夜中にでも燃やせばいいさ。火は良いぞ。士気が上がるかも」
――敵が攻めてきた時に、どさくさに紛れて戦死か暗殺が理想だが、難しいだろ。司令官は後方で指揮を取るんだから。夜中に敵襲に見せかけて殺すさ。弔い合戦とでも言えば、士気も上がる。
キルクスは意味を充分に理解してくれたのか、肩を竦めて呆れたように言った。
「やれやれ……貴方様とだけは敵になりたくないものですね」
「それは、お前が充分に金を落とせば回避出来る問題さ。俺が欲しいのは金と兵隊だ。出資したお前は、名誉が手に入る。……異存は無いよな?」
悪人の笑みを浮かべれば、愛想の良い共犯者の笑みが返って来る。
「もちろん」
ふふ、と、軽く笑いあった後、俺は少しだけ眉を顰めて付け加えた。
「エレオノーレを上手く拘束しといてくれよ?」
「イオに任せます。あの娘にも、簡単には割り切れない系統の事でしょうから」
しれっと言い放つキルクス。
イオ……ね。あのチビの存在が、どうにも少し引っ掛かってはいるが、今、訊くほどの事でもないので追及せずに俺は会話を終わらせた。
「……そうか」
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