Elnathー6ー

「しかし、……いやあ、危ないところでしたが、これでもう安泰ですな」

 一頻り喋って満足したのか、どこかやり切った様な顔で俺達に向き直ってそう告げる司令官。

「なに?」

 ここの指揮を預かる人間としては、随分と楽観的な物の見方に思わず眉根が寄ってしまった。

 しかし、そんな俺の態度には気付かないのか、このバカは上機嫌で話し続けている。

「明日には敵の艦隊を破った味方が上陸を開始する。それまでは、将の減った敵軍と睨み合ってさえおれば――」

「戦勝の報告が来たのか?」

 随分と自信たっぷりに言うので、斜め後ろの味方の目を見てから、訊ねてみた。すると……。

「負けるつもりでおっては、勝てるものも勝てませんぞ」

 敵だってそうだろ、このバカ。一騎打ちの観戦に興奮してハイになってあがるな。

「しかし、将軍の一人が討たれたのは事実ですよ。そうすぐには攻勢に出れないのでは?」

 俺の機嫌が刻々と悪化していることに気付いたのか、キルクスが軍団長に賛意を示しつつも、俺を宥めるような声で割ってきた。

 しかし、短くない時間行動を共にしたというのに、コイツも楽天的過ぎるな。

 学習しない人間は、どうにも好きになれない。

「いや、逆だ。昼に簡単な葬儀と、演説を行い、弔い合戦として夕刻には攻めてくるだろう」

 冷静に現状と今後の事を見立てると、周囲の空気の温度が下がった。

「……場所を移そう」

 熱を冷ますのはいいが、士気まで落とすわけにも行かないか、と、俺も少し冷静さを取り戻し、建設的な提案をしてみる。

 司令官も不用意に一般兵に込み入った事情を聞かれたくないのは同じようで、すぐに同意して俺達を先導し始めた。

「ええ、ええ。中央のあの建物を本部として使っておりますので、そこへ」


 苦々しい顔で肩を怒らせて歩く指揮官。

 ハン、と、斜に構えて皮肉を口の端に浮べれば、キルクスにチビ、そしてエレオノーレにドクシアディスと味方全員から咎めるような目を向けられた。

 ハッ、と、視線を無視して短く息を吐き、手を頭の後ろで組む。

 別に、周囲との摩擦には慣れている。協調性なんてのは、弱い人間が群れるために必要なものであって、俺には不要なものだ。

 それに今は、ご機嫌取りをするのが必要な場ではない。仲良しごっこが出来る場でもない。今は戦時だ。

 戦場では、無能なヤツは、さっさと舞台から退場させるのが鉄則だった。 

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