Elnathー5ー

 ――拙いな。


 歓声が止み、改めて拠点の内部を見て反射的にそう思った。拠点そのものは広いが、人の気配が疎らだ。

 これは、攻城戦で想像以上に削られているな。

 すぐに退くべきか、それとも今日は持ちこたえられるのか、いずれにしても早急に軍議が必要だった。

「ここの司令官は?」

 先に拠点に着いていた――とはいえ、僅かな差ではあるが――キルクスに尋ねるが、肩を竦められてしまった。

 まだ挨拶に来ていない? てか、この騒ぎの中、どこほっつき歩いてるんだ? ……まさか、既に戦死してるとかいうオチか?

 周囲を囲むようにして歓迎している先遣隊の顔を見るが、いまいち状況が読めなかった。この状況でも少々危機感が足りない浮かれた顔は、これまでの経験から知っている、良くも悪くも根が陽気なアテーナイヱ人のモノだが……。

 近くのヤツから聞き出そうかと思ったその時、正面の人波が割れ、少々鼻につくような格好つけた歩き方でここの司令官が現れた。周囲を固める四人の少年従者は、警備というよりはコイツの趣味のようにしかみえない。戦場を舐めているって言うか……、なんと言うか……。まあ、こういうのも、あのアテーナイヱのアクロポリスでよく見た姿であったので、舌打ちだけで俺は済ませた。

「支援、感謝いたします」

 演技過剰気味の大袈裟な身振りで、キルクスの手を取った司令官は、次いで――俺の方へと向き直り、キルクスと同じように手を取って礼を言った。もっとも、キルクスに対するときよりは、幾分、俺を下に見ている態度ではあったが。

「アナタも、随分と良い腕をしておいでだ」

 ちなみに、この司令官は女には興味がないのか、ドクシアディスの後ろに隠れているエレオノーレとチビは――一応、視界には入れていたみたいではあったが――特に言葉もかけずに俺達から一歩離れて先遣隊の連中に向かって演説し始めた。

「諸君! 見よ、勇壮なる我等が同胞達を。敵の海上封鎖をものともせず、我々と共に戦うために馳せ参じたのだ。敵地を占領し、孤軍奮闘する我々の血と汗は報われるのだ!」


 ……話がくどいと思うのは、俺だけなのだろうか? なんていうか、独特のアクがあるよな。自分に酔ってるって言うか。

 しかし、周囲を見る限り――少なくとも先遣隊の連中は拳を突き上げて賛同しているので、そう悪くはないらしい。もっとも、援軍を見た興奮が多分には含まれているだろうが。

 まあ、普通の兵隊を鼓舞するなら、このぐらいがいいのかもしれんな。

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