Elnathー4ー
いいな、これ。
注目が集まるのは気分が良い。剣の切っ先から柄尻に至るまで意識が張り巡らせられていくような、自分自身が人を斬るだけの剣の一部となったような……。ただの力そのものに自分がなった気がする。激しい嵐のような、暴力そのものに。
――殺したい。
剣を振ればただ細切れになる襤褸切れみたいな雑魚じゃない。そんなのは、ただのゴミ掃除だ。目の前の腕に自信のありそうな男を殺して、天に向かって叫びたい。
俺は、いや、俺こそが強いんだと!
大人二人が横になれるだけの間合いを空け、敵は剣を抜いて構えた。
中段に構えた剣を、とてもゆっくりと上下に短く振り続けている。剣先が漫ろなのは、新兵に良く見られる癖だが、コイツは違うな。
リズムを取って、動きの流れの中で柔軟な対応をするつもりのようだ。
向こうの出方も見たかったし、俺は逆に無造作に下段に構え、ゆっくりと距離を詰める。中段は剣や腕の長さがはっきり見えるので、間合いが読みやすい。振り被る手間を減らしているんだろうが、所詮は浅い知識だ。
深入りするギリギリで足を止めると、揺すっていた切っ先が下がった瞬間、大剣にもかかわらず、短く突いてきた。
斬撃が来ると思っていたので、意表を衝かれ、先制を許してしまう。
体格と得物のわりに俊敏な動作をすることに意外の感は受けたが、そこまで鋭い一撃でもなかったので、掬い上げるような一撃で剣を弾いた後、手首を返して突き返してみた。
敵は、仰け反って避けた。
追うように刃の向きを変えて振り下ろそうとするが、それよりも早くに敵の剣が俺の腹を薙ぐように地面と水平に振られたので、柄の部分で受けて一歩下がる。
……ふうん。
コイツ、弱くない。決着までには、散々打ち合うことになっただろう。
――かつての、レオと戦う前の俺だったなら。
盛り下がってしまった気分で、改めて敵をじっくりと見てみる。
うっすらと生やしている口髭。年は俺よりも少なからず上に見える。身体も一回りほど大きいな。
かつては――。
遊ぶ間も無く死ぬ弱い人間が嫌いで、強い人間を殺す時はもっと昂れたんだが、エレオノーレと居て毒気が抜かれたのか、なんだか虚しいような気がした。結末が分かっている真剣勝負に、なんの意味がある?
退くか? と、目で問うが、相手はなんの反応も示さなかった。
否、大きく息を吸い、鋭く斬り掛かってきた。
振り降ろされた敵の剣。鍔の少し上を目掛けて俺の剣を合わせ、接触の瞬間に鋭く引いた。
青銅に刃が喰い込む独特の重さがあり、僅かに拮抗した後に不意に手応えが消える。敵の大剣の刃が宙を待っている。
刹那の間に刃筋を僅かに変え、剣を折った勢いそのままに俺は敵の首を刎ねた。
戦場の音が全て消えたような静けさだった。
ドスン、と、首が地面に落ちた瞬間は。
右手を上げ、陣地の門の方に振り下ろし、味方を動かす。
そして――殺した敵将の首と胴体を持って、敵陣へと俺は背筋を張って大胆に歩を進めた。
前に出していた重装歩兵は隊列を維持せずに速歩でバラバラに味方の門へと向かったが、主だった連中と投石兵はゆっくりと俺への攻撃に対処――援護射撃出来る距離を保ちながら移動しているようだった。
上手く形容できない……不思議な気分だった。背中を誰かに守られているという事も、殺した敵に敬意を払うという事も。
あの逃走劇で相対した同族ではなく、所詮は他国の負け犬なのに……。
「弔ってやれ」
遺体を渡すと、敵兵の何人か敬礼して応じた。
死体は盾の上に乗せられた後、白い布で包まれて、四人がかりで中央の陣へと向かって運ばれているようだった。
最初の数歩は、背後からの攻撃を警戒して後ずさったが、敵の反応を見ているうちにバカらしくなって素直に背中を向けた。
どの道、投石攻撃は風切り音で、斬撃は足音で気付ける。
敵を試す意味でも、堂々としていればいい。
結局、俺が味方の陣地に入るまで、攻撃は来なかった。
背後で重い音を立てて門が閉まる。
途端、地の底から天まで突き上げるような味方の歓声が湧き上がってきた。
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