Hoedus Secundusー3ー

 打ち合わせを終え、港へ向かう道すがら、ドクシアディスが耳打ちしてきた。

「アイツ等を人質に、アヱギーナに加担する方がいいんじゃないのか?」

 それは、俺も思っていることではあるが……。コイツには言ってないが、俺としては既にアヱギーナの領事館で一発かましちまってるしな。受け入れられるか否か、若干、保証出来ない部分がある。

 まあ、が、今、裏切らない理由じゃないが。

「ことはそう単純じゃないだろ。属する陣営の報告だけを聞いているから、アヱギーナ優勢のような気がするが、実情は分からん」

 船という高速の移動手段を使った戦いだ。しかも、どちらもが商業国という特性上、影響圏の広さや経済実態を把握し難い面がある。農業国のラケルデモンと違って、どちらも国の余力が見え難い。

「そもそも、寝返るにしたって、手土産が要るだろう。あと、ついでに言うんなら、お前らの生活を再建させるための元手がよぉ」

 キルクス達を渡しただけで、アヱギーナが俺達を迎え入れるかは未知数だ。

 また、キルクス達の船を強奪したとして、戦時下のアヱギーナがそれを徴発しない保証はない。というか、俺なら間違いなく、船も供出させる。

 今、アヱギーナと組んだところで、得るものがない。

 まあ、な、と、頭の後ろで腕を組んだドクシアディス。

「が、貴様等にも配慮する」

 ん? と、ドクシアディスは不思議そうな顔で俺を見た。

 俺は、横目で軽く視線を合わせた後は、目を正面に戻して続ける。

「色々と事情があって今はコッチにいるが、俺としてはエレオノーレを守れるなら属する陣営はどちらでも構わない。状況次第で揚げる旗をすぐに変えてやるよ」

「信用して良いんだか悪いんだか」

 ふん、と、鼻を鳴らしてから論点の間違いを正してやる。信用なんてお互いに端から無い筈だ。だって――。

「俺が問題とするのは、損得だけだ。お前は違うのか?」

 俺を真似るように鼻を鳴らしたドクシアディス。

「違わないさ。……なら、ま、せいぜい高く買ってもらえるほうに売りつけてやるとしますかね。大将」

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