Hoedus Primusー10ー

「そんな装備でどうする気だ?」

 しばらく装備を整える様子を黙って見ていたが、どうしても我慢出来ずに強い口調で問い質してしまった。

 まあ、俺の兵隊なんだし、無駄死にさせるわけにもいかないからな。

「あ?」

 ドクシアディスは、分かっていない顔をしていた。

「盾の大きさが半端だ。それだと半身しか隠れないぞ?」

 ここに来る前にあの領事館で見たアヱギーナ兵もそうだったが、どうにもこの連中は戦争ってものを判っていない気がする。ファランクスで突撃するなら全身をガードするべきだし、足で撹乱する遊撃隊になるならペルタ――腹当ぐらいの大きさで、槍を保持する欠けのある三日月盾――を装備するべきだ。

 中途半端は、無難ではなく、最悪の選択肢だ。

 しかしドクシアディスは、装備を選び直さずに、ちょっとめんどくさそうな顔で答えてきた。

「これでいいんだよ、船の上で戦うにはな。槍なんかじゃ届かない距離で戦うんだ。投擲物の軌跡を見極めて防ぐんだよ」

 そう言い返されると、飛び乗って制圧するぐらいしか海戦の方法が思い浮かばない俺としては黙るしかないが……。

 つか、海戦重視の装備なら、陸では作戦をしっかり立てないと負けるな。

 盾を捨てさせて散兵に――、いや、ダメだな。投石攻撃は、投げるまでに時間が掛かる。その隙に軽装歩兵の槍隊に突っ込まれたら、壊乱するな。そもそも、敵が突っ込んでくる最中にそれを無視して石を投げるだけの心胆があるかも分からんし……。

 陸でも、船同士みたいに距離をとって対峙出来る状況が望ましいのか……。柵とか、堀とか。そういった、簡単には越えられない障害物が――。


「アンタはどうすんだよ」

 頭の中で今後の作戦を練っていると、唐突にドクシアディスに絡まれた。

「あ?」

 長剣に腹当、膝当に脛当、軍用サンダルと完全武装している。訊かれるほど変な格好でも無いはずだが……。

「盾も無しにどうやって戦うんだ?」

 ああ、と、質問の意図は理解したが、今度は俺がめんどくさそうな顔をする番になってしまった。

「足で動いた方が、回避から次の攻撃につなげやすいんだよ。盾で守っている間に包囲されるのも嫌だしな」

「船では別だ。なにか――」

「おい! 余計なことするなよ」

 怒鳴りつけるものの、ドクシアディスは意に介さずに手早く店員を捕まえて俺の腕を採寸させた。

「いいから素直になれ」


 結局、ドクシアディスに押し切られ、邪魔にならないサイズの――俺の頭と同じ位の大きさの小さな丸盾を加工し、左腕に篭手の様な形で装着させられてしまった。

「青銅製だから重いかもしれないが、アンタなら平気だろう」

 まるで弟を見るような目を――まあ、おそらくコイツは成人しているようなので間違いなく年上ではあるが――ドクシアディスがしているのが気に入らない。だが……。

 肘うちをするように左出を鋭く引き、頭の上に翳し、心臓近辺まで素早く下げる。

 思いの外動きの邪魔にならずに扱いやすかったのが、なんだか余計に俺を苛立たせた。

「……ああ。剣を右だけで構えた際にバランスが取れるし、逆にこのぐらいの方がちょうどいいかもな」

 無言でいて勝ったと思われるのも癪だったので、努めて無感動に俺は呟き、全員の装備を調達した後の残金を受け取って店を出た。

 すっかり軽くなった財布を腰に括り付け、少なくとも見た目はそれなりになった俺の兵隊に向き合う。

「さて、じゃあ行くぞ。貴様等、お行儀良く振舞えよ。金持ちのボンボンをだまくらかすんだからな」

 俺の冗談に、ははは、と、軽い笑いを返して後に続いた俺のアヱギーナ人部隊。


 そんな中、エレオノーレだけが不安そうな顔をしていた。

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