Hoedus Primusー6ー

 キルクスたちの姿が完全に見えなくなってから、近くにいた巡察中の兵隊にとある場所を訊ねてみる。そいつは最初、目を白黒させていたが俺が今回の戦争で雇われたラケルデモン人の兵隊だというと、意外な程にすんなりと重要情報を教えてくれた。

 どうやら、壁の内側には敵はいないとでも思っているらしいな。

 軽く礼を言って、不審感を全力で顔に出しているエレオノーレを連れて目的地へと歩き出す。


 戦争前にここの港にいた居留アヱギーナ人は、まとめて城壁外に放り出し、貧民街を形成させて、監視しているらしい。

 ふ、と、つい微笑んでしまった。

 雑な仕事だ。

 こういう手合いを管理するには、そのまま自由にさせておく寛容さか、逆に皆殺しにするくらいの非情さが必要なのに。どうにも新興国にはそうした経験の蓄積が無いようだ。

 奴隷として他国に売り飛ばしもせずに目の届く所に放置するとか、自分から反乱の目を育ててどうする気なんだか。

 ……まあ、恐怖による管理しか覚えなかった国もどうかしていると言われれば、否定は出来ないが。


「さて、エレオノーレ」

 アテーナイヱの服屋で、軍需物資補給の名目で新品の服を三十ばかり買った後、城門の前で改まってエレオノーレと向き合う。

「……また、悪いことするの?」

 そもそもの原因を作ったのは自分自身だろうに、服の入った大きな袋を肩に担いだ俺を、眉根を寄せて見るエレオノーレ。

 まあ、自覚はあるものの、あんまりといえばあんまりな態度に、ふん、と、鼻で笑ってから、俺は問い掛けた。

「信用が無いな。……まあ良いが。ちなみにエレオノーレは、たまたま戦争が始まる前にここにいたというだけで、不当に扱われているアヱギーナ人が可哀想だと思わないのか?」

「思う」

 即答だった。

 手間がなくていいが、素直で単純なのも過ぎれば美徳とは言えないな。

「な? 俺の行動は慈善事業だろう?」

 詐欺師の顔でそう重ねれば、エレオノーレは不承不承頷き、まだ納得していない顔をしていたものの一応は協力を了承した。

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