Capellaー4ー

「やっはり私は、あの人達を見殺しにしたくない」

 翌朝、エレオノーレは強い目で俺を見て言った。

 だろうな、とは思ったものの、即答せずにエレオノーレの顔を見る。だけど、エレオノーレは表情を少しも変えなかった。

「わかった」

 そう一言だけ俺は答えて宿を出る準備を進める。

「その……アーベルは怒ってる?」

 ここを出ると決めたのは自分自身だろうに、布袋に荷物をつめようともせず、エレオノーレがどこか弱気な声で訊いてきた。

「なぜ?」

「わからない。でも……」

 そう思った理由を訊き返しても、エレオノーレの返事は要領を得なかった。

「わかならいで済ますな。理由がわからないというなら、口に出さずにいろ」

 溜息を飲み込んで命じると、エレオノーレはすぐに従った。

「うん……」

 宿を出て、簡単な旅の道具を揃え――もっとも、可能な限りキルクスにたかるつもりだが、いざという時のための最低限の準備だ――、昨日の領事館へと足を運ぶ。

 町は、予想通りといえば予想通りなんだが、どこかピリピリした空気が漂っていた。

 領事館での一件の影響なのは分かるが、アヱギーナ人とアテーナイヱ人の衝突――と言っても口喧嘩が主だが――が見られるが、ラケルデモン兵はあまり干渉していないのが緊張を助長させている。

 妙だな。

 確かにラケルデモンにとって利権の無い二国の争いに介入するメリットは無いが、自国の目と鼻の先の保護都市ではしゃがれて面白いわけは無い。いくつかの戦勝で陸戦最強と謳われているが、いや、だからこそ舐められるわけにいかないはずなのに。

 ……どうにもきな臭い。

 どちらかの国との間に、なんらかの密約があるのか……。いや、もしかしたら……。



 領事館についても、すぐにキルクスには会えなかった。まあ、しょうがないか、と、協力する旨を昨日の宴席で覚えていた顔のひとりに伝え、近くの部屋で様子を窺う。

 騒ぎのあった翌日だからか、領事館内はどこか慌しく、人の出入りが激しかった。服装から察するに、アテーナイヱ以外の人間が多い。自国民の避難の相談って訳ではなさそうだ。もっとも、第三国から戦時中の故国への民間人の引き上げなんて意味が無いだろうけど。

 それに、ラケルデモンの役人も顔を出していないようだった。

 少し意外だな。

 騒動の賠償金をふんだくりに、ラケルデモンの小隊が押しかけてくるかと思っていたんだが……。

 やっぱり、そういうことなのか?

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