Castorー4ー
二対二、まあ、エレオノーレが不安ではあるが、それを言うなら怪我をしている俺の方が単純な戦闘力では劣っている。クソ、気遣う余裕が無いのが、なんだか腹立たしい。
改めて剣を構える、敵はどうやら二対二よりも、一対一に別れることを望んでいるようだった。
迷ったのは一瞬で、すぐさま左に飛んで、片方の敵を引き寄せる。出来るだけ、早くかたをつける。闇雲に打ち合うのは、今の俺には不利だ。たった一撃。それに全力を賭ける。
と、その時、既に始めていたのか、おそらくエレオノーレの突きを避けた敵が、俺の相手の近くにいったん下がり、エレオノーレと再び正対した。あの突きを初見で躱せるとは中々だな。
……ん? 気付くと、俺と敵、敵とエレオノーレがL字型の配置になっていた。
この位置は……。いけるか?
すうっと、息を吸い込み、腹に力を入れる。来る、と、そう予想した敵が体中に緊張を漲らせた瞬間、右肩に担ぐようにして剣を構え、三歩の距離を一気に詰めた。
上段からの斬撃は、間合いを見切られやすい。分かってる。案の定、ギリギリの間合いで敵は避け、横に薙いできた。剣から手を離し、柄を蹴って敵の方へと飛ばす。避けるか、攻めるか。敵が迷ったのは、刹那にも満たない時間だった。跳ね返った剣が再び俺の手に戻るのを嫌がったのか、敵は自分の剣で弾くことをせずに一歩さがる事を選んだ。
ほんの――、時間にして一秒程度の猶予が俺に与えられた。
エレオノーレと対峙する敵が、この場からどの程度離れているかに成否はかかっていたが……。
狙いに気付いた敵が突進してくる。しかし、重い剣を振り回す眼前の敵よりも、無手の俺の方が素早い。
エレオノーレと対峙していた敵の足を、斜め後ろから、地面を水平に薙ぐように放った俺の蹴りが払った。
エレオノーレも驚いたようだったが、足を払われた敵の隙ほどじゃなかった。エレオノーレが事態を瞬時に判断し、やや不恰好にではあったが目の前の敵を斬った。俺は地面に転がり、エレオノーレの後ろに下がった。
敵は残り一人。
しかし、まだヤる気らしい。
エレオノーレが斬った相手の剣を奪って、俺自身も構える。これで二対一。
「武器を棄てろ!」
エレオノーレが叫んだ。
敵は――、一瞬だけ無防備な顔をした後、大上段に剣を構えて叫びながら突っ込んできた。
「おぁあああぁ、らあっぁあ!」
掬い上げるようにその全力の一撃を俺が押さえた時、エレオノーレが男の首を突いて絶命させた。
「……どうして」
呟くように言ったエレオノーレ。
「気にするな。この場で狂った世界にいないのは、お前だけなんだろうよ」
短く答えた俺は、一歩前に出て改めて周囲を見渡した。
見物人は、真剣勝負と分かった瞬間に逃げたのか、この場所で生きている人間は俺自身を含めて三人だけだった。
目の前には四つの死体がある。
流石は精鋭といったところか。かなり危なかった。エレオノーレの助太刀は、かなり助かった。ひとり目を倒した後の劣勢時に、エレオノーレの奇襲が二人目を殺せていなかったら、負けたのは俺達だっただろう。
この男達なら、怪我をしていない状態の俺でも互角だった。
不思議と……憎しみは湧いてこなかった。あの夜に受けた怪我を倍にして返すつもりだったのに。最後の男は、俺に剣を押さえられた時、確かに微かに笑っていた。
いつの間にか、名も知らない戦士に対する微かな畏敬が胸に湧いていた。
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