Polluxー13ー
道には、十一の死体がある。武器に防具――まあ、血で汚れてはいるし、あと、あんまり上等な代物でもないが――、それに、薬の類もこれでたっぷりと補給できそうだ。
「エレオノーレ、離れていろ」
敵が近くにいるかもしれない状況でバラバラになるのはあまりよくないが、こういう事に抵抗のあるエレオノーレを側においておくわけにも行かず、俺はそう命令した。
「どうする気だ?」
なんとなく察しがついているのだろう。敵を倒したというのに、エレオノーレは冴えない顔をしている。
「お前が嫌だと思うことを全て」
ごく普通の声色で答えると、途端にエレオノーレは顔を顰めた。しかし、それが必要なことだとは理解しているのか、表立って反論しては来なかった。
久しぶりのお楽しみに、ニンマリと笑いながら俺は続ける。
「自分がされて嫌なことを敵にする。戦争の基本だろう?」
エレオノーレは無言で麦畑の中に消えていった。
さて……と。
身包みを剥いだ後、全員の首を切り落とす。比較的良さそうな槍を三本選び抜き、残りの槍から適当に選んだ十一本を地面に突き刺し、その石突に首――正確には、喉の空洞を差して飾る。
狩った首の中の比較的良く血が滴っているひとつは、差して飾る前に地面に血文字を書くのにも使った。
『覚悟しろ! 次は、貴様の番だ!』
これで戦意はかなり殺がれるだろう。自分達で手に負えないと判断して、精鋭部隊――あの赤い外套の処刑部隊あたりを呼びつけるかもしれない。まあ、あの部隊がこの近くに居るか居ないかは分からないし、いずれにしても配備には二~三日掛かるだろうから、その間にエレオノーレを逃がせばいいだけだ。
その後は――、傷を癒すために秋まで潜伏し、中央のアクロポリスに討ち入る。そこからどうなるかは……、まあ、運による要素が大きいか。それに今は、そんな先の事を考える状況でもない。
――フンッ。
いや、まあ、俺には元々先なんてなかったってのが、本当のところなのかもな……。
比較的ましな服を奪い、端が欠けていない盾、さっき選んだ投槍と剣を装備し、軽装歩兵になりすました俺。ただ、流石にエレオノーレは、男の格好をさせるには無理があり過ぎるので、外套の布を繋ぎ合わせ、西国風のトーガっぽい形にして身体に巻かせた。
「いいか? お前は、ラケルデモンの国内で強盗にあった旅人だ。関所でこう言え。『国に帰り、ラケルデモン人に対する犯罪の保証を早急に協議する。旅券は無いが、速やかに門を開くべし』とな」
頷いたエレオノーレが、すぐに訊き返してきた。
「アーベルはどうするの?」
フン、と、鼻で笑っただけで俺は答えなかった。
エレオノーレは、おおよそ全てを理解した顔をしていた。
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